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130.魔塔主のお返し
騎士たちとレイヴンで辺りを警戒するが、魔物の気配は完全に途絶えたことが分かり騎士たちも一旦剣をおさめた。
「お、うまくいったみてぇだな」
「師匠!」
後方から飄々とした声を発したテオドールが姿を現す。そのままレイヴンに近づくと安心させるように頭に手を置いた。
「一体何をしたんですか?」
「魔物を返してやったんだよ。返還、だな。元の召喚主のところに送ってやった」
「送ってやったって……そんなこと可能なんですか?」
「あぁ。魔物そのものっつーか、魔力 を逆転させたって言えばいいか。流れを変えた。そもそも大元の魔法陣があるのはココじゃねぇからな」
「なんかテオドール様の言ってることがぶっとんでることしか分かんないですけど、でも良かったです。解決したみたいで」
テオドール以外は驚きながらもある意味いつものことだと何とか納得し、ニヤニヤ顔を見ながら頷く。レイヴンも色々と悩みながらもテオドールのやることならばと最終的には納得した。
「それで、師匠の仕込みとやらが成功したんですよね?」
「まぁな。とりあえず大元の魔法陣は確実にぶっ壊れただろうな。飛び火してさらに主も焦げればいいんだけどよ」
「なんですかその危ないヤツ……魔法どころじゃないですよ」
「あのなぁ。お前を殺ろうとしたヤツに同情すんじゃねぇよ。こんなんじゃ全然足りねぇ」
ニィと笑うテオドールの顔が悪人そのもので、ウルガーはわざとらしく両肩を抱いて距離を取る。レイヴンも言うことは理解できるし嬉しいところもあるのだが、この人を怒らせることは何が起こるか分からないと、改めて思い知らされた気がした。
「それで、こちらに描かれていた魔法陣は……」
「心配しなくても、もう何も起こらねぇよ。全く……転送まで使ってくるとは面倒なヤツ。人間にできるかも怪しいぜ。裏に人外がいるとしか思えねぇな」
「人外って……師匠。それって……」
「まぁ、魔族やら上位の魔物やら。色々いるだろ。そういう輩が絡んでるんじゃねぇか?まぁ、本人が頭おかしいくらいにキレるヤツだっていう可能性もあるけどな。どちらにしても面倒臭ぇな」
ウルガーが、マジですか……、と呟くと。隣の騎士も事の重大さに血の気が引いたのか黙り込む。レイヴンですら、魔族……、と言ってから固まってしまった。
魔族と一口で言っても、人間と同じように共闘関係の者と敵対関係の者もいるし、愉快犯もいる。人間よりも寿命が長く優れた知識と力を持っているのは間違いないので、敵対すると立ち向かうのが厄介であり、普通の人間に対処できるかと言われれば絶望的だと言える。魔族と対等に渡り合える人間は限られてくるからだ。
「まぁ、気まぐれなヤツらだから飽きたら離れていくだろうしな。いざとなったらやるしかねぇが」
「そんな簡単に言われても……」
「だよなぁ。正直俺も無理ですよ。団長とテオドール様くらいじゃないですか?」
「普通だったらな。別にいろんなやり方があるだろ。正面からぶつかるのは1番面倒臭ぇから俺もやりたくねぇし」
テオドールが両手をあげると、皆も長い溜め息を吐いて俯いてしまう。安心させるようにテオドールが順番に全員の背中を叩き、ケラケラと笑い出す。
「なぁーに落ち込んでんだよ。正面からやりたくねぇだけで、やり方なんざいくらでもあるだろ。それに決まった訳でもねぇのに溜め息ばっか吐くんじゃねぇよ」
「師匠は笑えるかもしれませんけど、普通の人は笑えませんから」
「そうですよ。このまま団長に伝えたら大変なことになりますよ?」
「ディーは面倒だな。アイツすぐマジになりやがるから。ウルガー、確定するまで魔族の魔の字も言うんじゃねぇぞ?それと、お前もだ」
急に指差された騎士も、はいっ!と声を裏返しにするくらいに緊張しながら背筋を伸ばした。ウルガーはウルガーで、はぁ……と何度目か分からない溜め息を漏らす。
「この件は暫く俺に任せとけって。色々対策してんだからよ。なぁ?」
「確かに最近籠もって何かされてましたよね。それと関係が?」
「まぁな。ま、その時のお楽しみってヤツだ」
「企み顔が余計に不安になりますけど……俺は信じるしかないので信じますよ」
「テオドール様が対策してると言うのならば、俺としては安心ですけどね。団長にはうまく言っておきますから。はぁ……全くこんなのばっかりなんだよなぁ」
ウルガーの悲哀を慰めるように今度はレイヴンが肩を叩いて励ますと、テオドールが邪魔をするように間に入って2人の肩を抱いて寄せる。2人の体勢が崩れようとお構いなしに、ひとしきり笑うと、引きずるように歩き出す。
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