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131.魔法使いたちとカフェ

ウルガーと騎士は報告のために王宮に向かうことになり、テオドールとレイヴンは2人と分かれて気分転換のために街中を歩いていた。 「テオ、全部ウルガーに押し付けましたよね?俺たちも報告の義務はあるんですよ?」 「元々俺らは手伝いで行ったんだから別にいいだろ。アイツはそういうの得意分野じゃねぇか。やらせておけばいいんだよ」 「はぁ……後でウルガーに謝っておこう……流石に不憫すぎる」 「お前もさっきからアイツの話ばっかりだな。俺にもっと聞きたいことはねぇのかよ」 テオドールが不満げにレイヴンの顔を覗き込むと、近い!とレイヴンは両手で身体を押し返す。テオドールはニヤニヤしながら仕方なく身体を離して頭をポンと撫でる。 「内緒にしていることを無理やり聞き出す趣味はありませんから」 「気になってる癖に?素直じゃねぇな。まぁいいか。お楽しみは後に取っておくもんだ」 レイヴンはいつもの調子のテオドールにふと思っていたことを口走りそうになり、フイとそっぽを向く。 「……いえ、やっぱりいいです」 「なんだよ、意味深だな」 「言いたくなくなりましたので、気にしないでください」 「はぁ?まぁた訳分かんねぇこと言ってんな。そう言われると気になるんだよなァ?」 レイヴンが急に頑なになったのを見遣ると、テオドールは両肩を竦めて腕を取る。驚くレイヴンをいつものように引っ張ると、通りがかったカフェへと無理やり押し込んだ。 「ちょ、何、なんでカフェ?」 「好きなものでも食いながら、お喋りでもどうかと思ってな」 「そんな、恋人同士みたいな……」 「間違ってねぇからいいだろが」 カフェは外に設置された席とガラス張りのオープンな雰囲気の室内とで選べる、白を基調とした色調の店内とテラス席も爽やかな雰囲気で人気のカフェだ。貴族もお忍びで来るほど話題になっているせいか、ローブを羽織る2人は場違いな程に目立っていた。 「せめて、もっと気楽な服の時に来ましょうよ……すごい見られてるじゃないですか!」 小声で訴えるレイヴンを無視しテオドールはさっさとテラス席を指定してずんずんと進み、どっかりと椅子に座って足を組む。 「ほら、好きなの食っていいぞ」 「……食べますけど、せめてもの抵抗でローブ脱いでいいですか?」 「はぁ?今更だろ。そもそも俺は有名人だし」 「ホント腹立ちますけど、間違ってないのがさらにムカつきますよね」 テオドールはいるだけで悪目立ちする存在なのは分かっていたが、魔法使いの格好をしていれば余計だ。外出したその足で来ているせいで装備は普段よりも厳重であるし、傲慢な態度も放出している魔力(マナ)も、魔塔主そのものすぎてどうにも誤魔化せない。 注文を取りに来た店員も冷静を装ってはいるが、指先が僅かに震えているのが分かる。 「俺はフルーツタルトと紅茶を……師匠は?」 「俺はコーヒー」 「……かしこまりました」 テオドールがレイヴンに先程のことを言わせようとしているのは分かるのだが、逆に言いたくないレイヴンは運ばれてきたケーキをもぐもぐと口に運ぶばかりで口を一切開かない。 「よく食うよなぁ、相変わらず」 「……美味しいので」 「で、俺に聞きたいことがあるんだろ?」 「……別に」 頑なに口をつぐむレイヴンを愉しそうに見ながらテオドールもカップに口付ける。ほろ苦さが口の中に広がり、テオドールの味覚も楽しませる。 「うわぁ……相変わらず悪人面ですね」 「失礼だな。大人の嗜みってヤツだろ。それとも2人きりで話すか?」 「……そんなに聞き出したいんですか?俺としては忘れて頂いていいんですけど」 「何となくは分かるが、お前の口から聞くことに意味があるだろ?」 ニヤと笑う顔がいつも以上に憎たらしくて、レイヴンは紅茶を嗜みながら視線でテオドールを睨みつける。敵わないのはいつものことだが、どうしても素直に言う気にはならない。 「ま、急がなくてもいいけどよ」 「ここでは言いませんからね。その……ケーキと紅茶を美味しく楽しみたいですし」 「その割にはやたらと早々食ってたよなぁ?」 「2個めを頂こうと思ってたんです。別に構いませんよね?」 やり返すつもりなのか、悪戯に微笑みかけるとレイヴンは容赦なくその後もケーキを注文しペロリと食べていった。

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