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134.逃れられなくて仕方なく

 レイヴンは、テオドールに面白がられているのも理解しているので、余計に顔を合わせづらくなる。  身体を捻ったり、顔を逸らしたりしても、結局顎を掴まれて正面を向かされた。  テオドールの得意げな表情に諦めて言ってしまえばいいのだが、ここまできたら言いたくない気持ちが上回る。  レイヴンが大したことではないことにまで意地を張るのを面白がっているのか、テオドールもレイヴンの身体を両足で囲うだけで何もしてこない。  しばしの静寂が室内を包もうと、レイヴンを手放す気はなさそうだ。 「このやり取り、いつまで続ける気だ? 俺はいつまででもいいけどよ」 「……知りませんよ、もう。その体勢疲れません?」 「俺の体力舐めるなよ? 腕が痺れようがどうとでもなるから安心していいぞ」 「うわぁ……俺、このまま寝ようかな」  レイヴンは目を閉じて飽きるのを待ってみると、さらに沈黙が続く。  このまま寝落ちでもしてくれたらと思い、黙ったまま粘り強く目を瞑り続ける。 「……フハッ!」 「……」 「なかなかいい作戦だな。違う意味で我慢できねぇ」  嬉しそうな声色で、テオドールがレイヴンの耳元で囁く。  笑い声と共に吐息が耳の中へと吹き込まれた。  目を閉じていたせいで感覚が鋭敏になっていたせいか、ビク、とレイヴンの身体が律儀に反応する。  そのまま耳に唇が落ちてきて、何度か口付けられた後にペロと舐められた。 「……っ」 「もう少し待ちたかったが、このままお預けされてんのもなァ?」  ピチャリ、とレイヴンの耳の中にテオドールの生暖かい舌と水音が差し込まれる。  レイヴンはぞわぞわと総毛立つ。  平気な顔をして耐えていたかったのに、触れられてしまうとその守りが崩れるのもあっという間だ。  忘れていた体温がじわり、じわり、と上がって、身体はこの先へ進むことを期待する。 「なぁ、どうしてほしい?」 「どうも、こうも……別に……」 「そのまま目を閉じたままでいるつもりか? そっちの方が感じるんじゃねぇの?」  テオドールがレイヴンを揶揄う笑い声が鼓膜を揺らし、大したこともされていないのに鼓動も早まってくる。  観念して言ったところで開放されるという訳もないし、このまま流されてしまおうかという考えがよぎってレイヴンの心を揺らす。 「言わずにされるのと、言って甘やかされるのと、どっちがお好みだ?」 「どっちもされるじゃないですか……」 「シないという選択肢があるとは思ってねぇだろ? 俺はどっちでもイイけどよ」 「……はぁ。このままじゃ、あと何時間このままか分からないので。もう言いますけど、ガッカリしないでくださいね」  ゆっくりと目を開いたレイヴンが小声で告げると、テオドールも満足げに笑んで頬に唇を落とす。  定番のため息の後に、ジッと目線を合わせて口を開いた。 「テオが珍しく静かだったので、外で発散しているのかなって思っただけです」 「それで?」 「だから、それだけです」 「外で発散しているって何をだ?」 「……これ以上はもういいでしょう? 我ながら発想が恥ずかしくて最悪です」  レイヴンは、プイ、と、子どものように赤い顔を横に傾けた。  テオドールは、レイヴンの予想していた通りに、そうかそうか、と心の底から楽しそうな声を降らせてくる。  どうせ喜ばせるだけだと分かり切っていたのに、テオドールを増長させる態度しか取れず、居たたまれなくなる。  レイヴンは、だから言いたくなかったのに……と、小声で呟いてから、長い、長い、息を吐いた。

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