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135.もっと素直に
自分は別に何かを疑っていた訳ではない。テオドールが何をしているのか気になって、ただそれだけだったはずなのに。レイヴンは認めたくない事実を口にしろと言われているのが嫌だった。それは自分が最も蓋をしておきたい部分であり、見せたくない部分だからだ。
「なぁ、そんなに辛いことか?普通に言えばいいじゃねぇか。寂しかったって」
「……テオが取り組んでいることが大切なことだって分かっているのに、ですか?そんな子どもじみた感情で邪魔をしたくありませんし……」
「なんだ、浮気してるって思ってたんじゃねぇの?してねぇけどさ」
「それは……テオを見てれば分かります。別にしたところでとやかく言うつもりはありませんけど」
「嘘つけ。他の人とこういうことしてるの嫌だって言ってた癖によ」
明るく笑い飛ばすと同時にレイヴンに両腕を回して強めに抱きしめる。驚いたレイヴンだが、おずおずと背中へと自分も腕を回し、ソファーに寝転んだ体勢のままで抱きついた。
先程の流れからだと、無理やりにされてしまうのだろうと諦めていたので急な展開にイマイチ気持ちがついていっていないのだが、テオドールに抱きしめられるのはやはり安心する。
「悪かったな」
テオドールの謝罪の言葉が聞こえてきて、珍しいこともあるものだと驚きが先に来てしまい何も言葉が返せない。少しの間沈黙が流れると、テオドールの方が焦れて口を開く。
「なんだよ……レイちゃんが色々ヤキモキしてくれるのは可愛いが、別に辛い思いをさせたい訳じゃねぇし。お楽しみを取っておこうと思っただけだったのによ」
「……いえ、俺が変な態度を取ったからいけなかったんですよね。素直になれなくて、ごめんなさい。俺……何かちょっとテオが移ってきてるのかも」
妙なことを言うレイヴンになんだそりゃ?とテオドールが少し身体を離して問うと、レイヴンがはにかんだ表情を向ける。
「何か頻繁にテオに触れられてないと寂しい、みたいな?別に毎日その……して欲しいとか、そういう訳じゃないですからね?そこまでじゃないので、がっつかれても困りますけど」
「……そうか。それはそれは。俺も作業に没頭すると時間を忘れることもあるからなァ。レイちゃんを普段より構えてなかったとは、師匠としても恋人としてもダメだな。これは反省してずっと構ってやらねぇといけねぇな」
「だから、そこまでしなくていいんですってば。もう、そんな顔しないでくださいよ。俺がどんどん追い込まれていくから」
テオドールが素直に謝ってくれただけではなく、自分の言葉を聞いて嬉しそうに笑っているのを見てしまうとレイヴンも色々再確認してしまって、ただただ顔が熱くなってくる。
「なぁ、もっと素直なレイが見たい」
「ま、またそういうお強請りですか?だいぶ白状したのに……」
「いいだろ?今日は照れてるレイを可愛がりたい気分なんだよ」
「えぇ……もうだいぶ恥ずかしくて死にそうなのに。まだ言います?」
「素直さはまだまだ足りねぇ。俺にして欲しいこと、あるだろう?」
テオドールが逆に甘えるようにレイヴンの耳元で優しく囁くと、まずは返事をする代わりにレイヴンも腕に力を込めてテオドールにぎゅう、と、抱きつく。
「じゃあ……寂しかった分、俺のことを甘やかしてくれますか?」
「あぁ。たっぷり甘やかして、さっき食ったケーキより甘い時間にしてやるよ」
「うわぁ……甘そう。望むところです」
額と額をコツンと合わせると、2人で笑いあう。そしてどちらからともなく、自然と唇を合わせた。
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