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140.平常通りの師匠と弟子

翌日は予想通りレイヴンが顔を赤くしながら文句を言うところから始まった。テオドールも受け流しながらレイヴンを宥め、自分は余裕を見せつけベッドから一旦離れると珈琲を淹れ、レイヴンには温かいミルクをと、マグを2つ持ってレイヴンの元へ戻ってくる。 「……動きたくない。もう、ベッドから出たくない」 「俺はそれでもいいけどよ。どうせ休みだし」 「休みじゃなかったとしても、どうせ休みでしょう?喉もガラガラだし、身体はところどころ赤いし、1番恥ずかしいのが身体に力入らないし……」 「やっぱり文句言いまくるんだよなぁ。そこも可愛いレイちゃんだよな」 テオドールは終始ご機嫌でレイヴンを撫でると、温かいミルクの入ったマグを手渡した。文句は言うものの納得してのことだったので、レイヴンも大人しくマグを受け取りミルクに口づける。 「レイちゃんは動かないとして、俺はどうすっかなー。側にいるともっとヤりたくなるんだよなぁー」 「……いいから、テオは違うやるべきことをしてください。駄々をこねてみただけですから。少し休んだら俺もお手伝いします」 「最後までしなけりゃ触ってもいいよな?」 「何か不審者みたいな発言ですけど……まぁ、別に、構いませんけども」 甘々な気持ちが抜けきっていないのか、レイヴンが渋々許可を出すのを耳聡く聞きつけるとテオドールがニヤ、といつもの憎たらしさ満載の笑みを向ける。 「分かりましたから、その顔やめてもらえます?」 「素直なレイはいいぞー」 「言い方が気持ち悪い!」 「ったく。もうちょっと俺に対して優しい言葉をだな」 「昨日みたいに優しければ考えます」 フイ、とそっぽを向いて、マグを両手で包み込んで飲み進めている姿を見せるレイヴンは子どもっぽく、普段人前では見せない姿だと思えばテオドールも自然とニヤニヤしてしまう。 「テオ……その顔、引きます。もっと普通に笑える癖に。もしかして罵られたいとか?」 「そうじゃねぇよ。おすましレイちゃんよりはいいなぁってな」 「はいはい。テオの前だけですよー。こういう俺も許してくれるテオが好きですよー」 「うわ、棒読みすぎねぇか?」 テオドールが無理やりレイヴンの顔を覗き込む。近くで目が合うと、困ったように視線を泳がせて逃げようとするが、それでもしつこく覗き込むと、何?と、じぃ、と見つめ返してきた。 「ん?今日も可愛くてイイコだ」 「可愛い、可愛い、言わないでくださいよ。俺、男なんですからね?まぁ、テオに比べたらそれはそれは可愛いとは思いますけども」 「そんなこと言って。嬉しいだろ?」 「素面でそういうのやめて!恥ずかしい!何か、居た堪れない!」 この程度のやり取りで顔を赤くするのも可愛くて仕方ないのだが、これ以上揶揄うとレイヴンが口も聞かなくなりそうなので、ポンと頭をひと撫でしてゆったりと朝の時間を過ごすことにした。 +++ 少し時間が経過して―― シャツとパンツのラフな姿に着替えた2人はソファーに移動して作業を開始しようと少しずつ動き始める。レイヴンは相変わらず気怠そうにしていたので、テオドールがいつもの薬瓶を押し付けた。 「少しは動けるようになったか?」 「……毎回師匠の薬のお世話になる羽目になるの、どうにかなりませんか?」 「レイちゃんがか弱いから仕方ねぇよな。それにこの薬効くだろ?」 「何が入っているのか聞きたくありませんが、飲むと身体が楽になるんですよね。元気がでるというか……」 テオドールの自作の薬を飲み干し、空の薬瓶を溜め息混じりに返す。激しい後には大体この流れになるのだが、このために体力というのも何か違う気がして。レイヴンは迷いながらも結局お世話になっていた。 「それで、俺は何を手伝えば?」 「手伝いってほどでもねぇけどよ。この本読んどいてくれ」 「これは?」 「ん?まぁレイちゃんが勘違いしてたから、少しだけ見せてやろうと思ってな」 テオドールから渡されたのは1冊の本だ。ただ、題も何も書かれていないことから日記のようなものなのだろうかと、不思議に思いながら本を開く。

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