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145.合流
「な、何を……」
「――風撃 」
テオドールが間髪入れずに魔法を複数発動して、賊を壁に吹き飛ばしていく。
ズンズンと歩きながらレイヴンの側まで寄ってきたので、レイヴンは子どもを撫でながら一緒に立ち上がる。
妖精にお礼を言って精霊魔法を解除すると、髪と瞳の色は元の黒と焦げ茶に戻っていく気配がした。
「ありがとうございます、テオ」
「で、子どもがいる場所は分かったのか?」
「はい。妖精さんの映像を共有したので」
二人で話しているところに、魔法使いたちと騎士たちが駆け込んで来る。
ウルガーは剣の柄に手をかけたが、事態を何となく把握したらしくゆっくりとその手を離す。
テオドールが沈黙させたので動いている賊はおらず、気絶しているか動けなくなっているかどちらかだった。
ウルガーは、一緒に連れてきた騎士に指示を飛ばしていく。
言われた騎士は手にした魔道具のロープで、動けない賊を捕縛したあとに地べたへ転がしていき一か所に固めていった。
「切羽詰まっているのかと思いましたけど、そう簡単にテオドール様がやられたりしませんよね」
「俺は余裕に決まってんだろ。レイヴンが突っ走るから念のために副団長をお呼びしたって訳だ。ここに居たのは雑魚だったが、子どもがいる場所はさすがに警戒してるだろうしな」
「そうですね。しっかし現場を押さえたのは魔法使いの皆さんが初ですよ。俺らは毎晩見回りに駆り出されてたっていうのに……子どもがフラフラとしているっていう目撃情報は、ちょうど今さっき掴んだところでしたけど」
「たまたまだよ。でも、この子が無事で良かった。正気じゃなかったし、誰かが魔法を使って特定の場所に歩かせていた形跡があったから、解除したんだけど……」
子どもはすやすやとレイヴンの腕の中で眠っている。
何するつもりかはまだ分からないが、研究材料として弱い子どもを使う可能性はある。
恐ろしい話だが、狂った魔法使いや研究者ならば実験と称してやりそうなことだ。
レイヴンは騎士に眠る子どもを預けて、テオドールに顔を向けた。
「今から俺の見た場所へ行きますか? 行くならば少数精鋭で様子を見るのか、ウルガーたち騎士団にも協力を仰いで一気に突入する方がいいでしょうか?」
「気配に気づかれて、人質を盾に余計な行動を起こされても面倒だ。少し離れたところに騎士を待機させておいて、潜入するのは少数精鋭だな」
話を聞いたレイヴンは、ウルガーと騎士を連れてきた魔法使いに別の隊に合流するよう指示を出していく。
魔法使い代表でテオドールと一緒に怪しい場所に行き、他は引き続きうろうろしてる子どもや不審者がいないか念のため探すようにするのが良いと考えたからだ。
指示をしている間テオドールは静かにしていたが、側にきたウルガーがすみませんと声をかける。
レイヴンも指示を終えて、ウルガーを見上げた。
「力仕事なら、ウチの団長呼び出しますけど」
「そうだな。ココにいる雑魚が適当な陽動の下っ端だとすると、レイヴンが見つけた場所にいるのは格上のヤツが見張っている可能性が高い」
聖女の予知夢が当たっているのならば、子どもが捕えられているはずだ。
師匠と弟子で同じことを思い出したのではと直感し、小さく頷き合う。
「暑苦しいがディーもいた方がいいかもな。陛下への報告をアイツに押し付けられるし」
「またそんなこと言って。言っときますけど、その役目が回ってくるのは多分ウルガーですよ。愚痴に付き合うのは誰だと思っているんですか。師匠は話をややこしくしないでください」
ウルガーは様々な処理が得意だとは言え、テオドールの言い分はどうだろうか?
レイヴンは顔を曇らせる。
テオドールに軽く睨まれたウルガーは、両肩を竦めながら耳に手を当てて魔道具を作動させた。
「はいはい、じゃあ呼び出しますよ――団長、テオドール様とレイヴンが手がかりを発見したそうです。こちらも隊を編成し直して……って、団長、ちゃんと指示出しましたか? もう、走ってますよね。俺の声は聞こえてますかー!」
『今、向かっている!』
ウルガーの耳元から、大きな声が漏れ出た。
ディートリッヒの声だろう。
「来るそうです」
「あぁ、聞こえた」
疲れた顔をしても、ウルガーは別の騎士隊にも連絡を取って連携しているのが分かる。
別動隊にも副団長がいて、隊を動かしてるらしい。
誰が隊を率いて見回りを続けるのか、テオドールの案に乗って外で待機するかをこの場で組み上げて指示をしているようだ。
テキパキしているのはウルガーらしくない気もするが、レイヴンと同じ補佐をする副団長そのものに見える。
「ウルガーもこう見ると副団長だなって感じするんだよな」
「失礼だな。確かにレイヴンほど生真面目でもないけど、俺だって生活のためならやる時はやるって。使いっ走りだろうが、副団長だし」
「ま、お前はいざというときは使えるヤツだしな。せいぜい盾になってくれ」
「テオドール様が言うと冗談に聞こえないから嫌なんですよ……っと、ほら、獅子が突進してきましたよ」
ウルガーが親指で指し示した先に、見慣れた銀の鎧をカチャカチャと震わせながら全速力で向かってくるディートリッヒが見えてくる。
「来るだけで暑苦しいなお前は。もっと普通に来れねぇのかよ」
「人を、何だと思っている……お前と違って……だな。目的地に素早く、飛べる訳では……」
「ディートリッヒ様、お待ちしておりました。飲み物は……水がありました。どうぞ」
レイヴンは腰に下げていた簡易用水筒の蓋を捻って、ディートリッヒに差し出す。
次いで白いハンカチを取り出して、額に浮かんでいる汗を優しくふき取っていく
ディートリッヒは嬉しそうな表情を浮かべ、差し出された水をゴクゴクと飲み干してしまった。
「ウチのレイヴンに何させてんだよ、この阿呆が。大人しく見てれば、甲斐甲斐しく世話焼かれやがって」
「何だ、いきなり食ってかかって。レイヴンが親切に気を回してくれただけだろう。何を苛々している?」
「団長……いえ、やめましょう。今、痴話げんかをしている場合じゃありませんから。テオドール様もすみませんが、後のお楽しみに取っておいて頂いてですね」
「そうですよ。ここにいつまでもいる訳にもいきませんし、師匠、いつまでむくれてるんですか。恥ずかしい」
レイヴンは水筒とハンカチを受け取ると、それぞれ元の場所に仕舞いこんでいく。
自分を見たまま未だ不機嫌な様子を隠さない師匠の隣に歩み寄り、腕を掴み体重を乗せる。
掴んだままグイっと背伸びして、テオドールの耳元に口を寄せた。
「……さっきはありがとうございました。テオが来てくれると思っていたから、安心して飛び出せました」
テオドールと視線がぶつかる。
師匠へのお礼の意味を込めて、一瞬だけ嬉しそうに微笑んで見せた。
誰にもバレないうちにスッと真面目な表情へと戻し、トンと地へ足を着く。
テオドールは満足したのか、途端にいつものニヤニヤ顔へと戻る。
「うわー……飼い慣らされてる……」
余計なことを言ったウルガーは、すぐにテオドールに威嚇されそうになる。
「何か言ったか?」
「いいえ別に。はい、レイヴン説明!」
テオドールが魔力 で脅そうとしているのを察したのか、ウルガーは詳細の説明を求めてくる。
助け船を出すように、レイヴンは妖精から見聞きした場所の説明を始めた。
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