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146.洞窟の中で

 レイヴンが皆を案内したのは、城下町から徒歩で三十分ほど離れたところにある洞窟だった。  中は薄暗く人が入れる程度の広さはあるが、この辺りは時々野生の魔物がうろつく場所で町民が来ることはない場所だ。    入り口に古ぼけた看板あったが、薄汚れていて文字は読めなくなっている。  地面には何本かの杭が打ち付けられていて、杭自体に上下二枚の板が張られていた。  板を繋ぎ合わせることで入口を塞ぎ侵入禁止にしていたようだが、板自体が腐って朽ちてしまい隙間から誰でも中に入れそうだ。 「この場所も探索したはずなのに、どうして気づかなかったんだ?これじゃあ騎士は仕事してないとか言われちゃうじゃないですか」 「お前のせいじゃねぇよ。認識妨害がかかっていやがる。魔道具みたいに分かりやすいヤツじゃねぇな……それなりの魔法が使えるヤツの仕業だ」 「やはり魔法の知識がある者が関わっていると?」 「ま、そういうこった。俺とレイヴンは違和感に気づけるってだけだ」 「はい。普通に見ただけでは分からないし、捜索(サーチ)でも引っかからない類のものです。近づいたことによって、違和感に気づきました」  茶化す口調だが声色で責任を感じていることが分かるウルガーの肩をテオドールが軽く叩く。  レイヴンも洞窟の入り口で同じく魔力(マナ)の残滓を感じ取ったことに同意して、ウルガーよりもやりきれない表情を浮かべているディートリッヒに向けて、必死に励ましの言葉をかける。 「お前の言う通りの位置に騎士たちを配置した。後は中へ乗り込むだけだが」 「認識妨害と防音結界はかけてるから、中に入るのはまぁ適当でもいいけどよ。人数が増えると他の魔法が唱えられねぇからな。いざとなったら突入ってことで」 「じゃあ、誰が先頭でいきます?やっぱり団長ですか?」 「ウルガー……それ、自分が先頭で行きたくないだけだろう?」  レイヴンの苦言に対して、ディートリッヒは大丈夫だ、と付け足す。 「いや、その方がいいだろう。最後尾がテオドールで、2番手がウルガー、3番手がレイヴン。開けたところに出るまではこの並びで行こう」 「まぁ……しゃあねぇよな。ディーに全力で暴れられたら洞窟自体が崩れる」 「それ師匠が派手な魔法を使った場合も一緒ですからね」 「全く……口調に緊張感ってものがないんだよな、この人達」  口調だけは相変わらずの魔法使いと騎士たちだが、それはあくまで口調だけだ。辺りを警戒し薄暗い洞窟に足を踏み入れる。  始めは身体を屈めないと通れないくらいせまい通路が続き、灯火(ライト)の光で辺りを照らしながら慎重に進む。  少し湿った空気と緊張感からか、ディートリッヒは軽く額の汗を拭う。暫く道なりに歩いていくと少し開けた場所になり、暗がりに人影が見えてきた。 「――あれは」 「一旦防音結界を解く。気配を殺しておけよ?特にディー。アイツらが不愉快な話をしたとしても、勝手に飛び出たりするんじゃねぇぞ」 「……善処する」  一旦岩陰に身を潜ませ、最後方にいたテオドールがディートリッヒに念押しする。隠密が何よりも向いていないことを理解しているウルガーが大丈夫かな……と、小声で漏らす。 「見た感じ、見える範囲にいるのは雇った賊の下っ端だけだから。ただ、ある程度の魔法を使える敵がいるのは間違いなさそうだから、用心しておかないと」 「何にせよ臨戦態勢だな」  テオドールが指をパチンと鳴らすと、結界が揺らぎ防音が解かれる。すると奥から話し声が聞こえてくる。  檻のようなものがあることから、そこに子どもたちがいるのだろう。その前に見張りらしき賊が2名ほどいるのは全員目視で確認できた。 「なぁ、このガキどもはどうするんだぁ?」 「知らねぇよ。それに知らない方が身のためだって言われただろう?俺らはあの変なヤツにイイって言われるまで見張ってればいいって」 「だってよおー、こんな薄暗いところで何するってんだよ。ガキでもいいから味見させてくれねぇかな?」 「でも薄汚ぇのばっかじゃ……お、コイツはまぁイケそうだ。処理でもさせるか」  ディートリッヒの身体が小刻みに震えだす。  暴発まで間もない様子に待機していたウルガーがディートリッヒの柄にかかる手に触れ、助けを求めるようにレイヴンへと視線を流す。  その視線をそのままテオドールへと流すと、テオドールが顎で奥を指し示した。

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