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147.黒い影
「――霧よ 」
レイヴンが手のひらをかざすと、水が収束しそれが霧散して辺りを覆う。洞窟内に現れた霧に急に視界を閉ざされた賊が何だ何だ?と声を上げると、気配を追って飛び出した騎士2人が素早く敵を沈黙させる。
「おーおー。早かったなとりあえず親玉が戻って来ないうちにやることやっちまうか」
探知 でもまだ反応がないことを確認すると、テオドールが一旦結界を全て解き牢屋まで近づいて鍵解除 で鍵を開けていく。
カチャン、と音がすると身体を寄せ合っていた子どもたちがオロオロと大人の集団を見回して震えていた。その服装からも身寄りのない子どもたちや、庶民と言われる子どもたちが多数なことが見てわかる。
レイヴンが静かに檻の中へと入っていき優しく微笑みかけると、子どもたちの視線がレイヴンへと集まった。
「怖かったでしょう?もう、大丈夫だから。一緒に帰ろう?」
「お、お兄ちゃんは……」
「魔法使い。そっちのおじ……お兄さんも、怖そうだけどいい人だから。それに、騎士さんがみんなを守ってくれるから大丈夫」
レイヴンは優しい声色で話を続けながら、ふわりと丸い光を出して見せた。その光はふわふわと辺りを照らす。灯火 の光は安心するのか、手を伸ばす子どももいる。
「お家に帰れる?ホント?」
「うん、だから……」
子どもたちとレイヴンのやり取りを見守っていた騎士たちだったが、テオドールが身体の向きを変えて真剣な面持ちになったことに気づき、すぐに剣を抜いて構える。
テオドールも一旦檻を閉めると、檻全体を覆うように防御 と、身体保護 を全員分、素早く詠唱してかけていく。
「レイヴン、お前はそこで子どもの側にいてやれ。敵さんのお出ましだ」
テオドールの言葉に、黒い影がスッと現れる。その影は黒いローブ深く被っているため、顔を見ることはできないが、テオドールの声色ですぐに危険な相手だと言うこと理解したレイヴンは強化 を唱え、自身は子どもたちの前へ出ると背中へと隠すようにして相手を見据える。
「――破られたか」
「お前、何者だ!」
ディートリッヒには答えずに、影はブツブツと独り言を続ける。
「これだから頭の悪いヤツらは。くだらないやり方のせいで尻拭いをする羽目になる。もっと効率の良い方法を取れば良かった。おかげで俺の可愛いヤツらが――そうか、成程」
テオドールが無言の牽制で風の刃 を飛ばしたが、影の懐から一匹のキツネのような獣が飛び出して風を尾で打ち消した。
見た目はキツネのようだが、尾が刃のように鋭い。
ギラリと光る尾はどうみてもキツネには不釣り合いなものが無理矢理付けられているように見える。
「飼ってる魔物は小さくても合成獣 ってか。ずいぶんペラペラと喋る魔物使いだな」
「騎士は大人しく様子見しているのに、アンタはお構いなしか。そうか……あの時、主に仕掛けたのはアンタだな。魔法使い」
騎士も動こうとしたところで、鋭く高い音が洞窟内に響く。敏感な子どもたちが怖がって耳を塞ぎ、レイヴンも嫌な予感がして影の方角を見遣る。
「――この気配は」
「団長!来ます!って……数が多いって!」
ウルガーが剣で指した方向から、無数のコウモリの群れが現れる。洞窟内を埋め尽くさんばかりの数に戸惑いながらも、横薙ぎに払ってコウモリを撃墜する。
「このコウモリ、何か吸ってるぞ!」
「血じゃねぇ、防護魔法を吸ってやがる。コイツら魔力 を回収してるのか?」
最小限の動きで剣を振り続けるディートリッヒの後ろから、テオドールも炎 と放電 で、効率よくコウモリたちを沈静化させているが、奥から奥から湧いてきて、一向に数が減らない。個体は強くないのだが、魔力 を吸うせいで、このままだと傷を負うのも時間の問題だ。
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