151 / 207

149.信頼し合う師匠と弟子

「こっちが見えづらいと思って、調子に乗りやがって……」 空中に浮かぶソレは、赤い目をテオドールへと向けて様子を伺っている。 「テオ!大丈……――風の波(ウィンドウェイブ)」 後方から走ってきたレイヴンが挨拶代わりに魔法を放つと、召喚陣から湧いてきたコウモリたちが地へとまた落ちていった。 「レイヴンか。しっかしデカくても可愛くねぇなコイツは」 「あれは、コウモリの合成獣(キメラ)――」 洞窟の天井にぶら下がりこちらを伺うコウモリの大きさは、湧き出るコウモリたちと比べても5倍くらいはあるだろうか。羽も2枚ではなく4枚あり、時折物を溶かす液体を吐き出してくる。コウモリに魔力(マナ)を吸われたせいで解かれてしまった身体保護(ボディーコーティング)をかけ直す。 「テオ、召喚陣はテオにしか掻き消せませんから。その間は俺がアイツの相手をします」 「アイツは召喚陣を守るような動きをしやがるからな。まず動きを止めるしかねぇな。できるか?」 「俺を誰だと思ってます?魔塔主様の一番弟子ですよ?」 珍しいレイヴンの不敵な笑みにテオドールも口端をニイと上げて返す。任せた、と一言告げて、改めて召喚陣へと距離を詰めていく。 「動きが早いと言うのなら、その動きを封じればいい。先程までと同じ手は使えない、とすれば……」 レイヴンは十分に注意を払い、声に出しながら頭を素早く回転させる。自分が使用できる魔法の中から最適解を導き出していく。 「――光の呪縛(ライトカース)!」 紡がれた言の葉と共に、手のひらから光が放たれる。 その光は洞窟の壁面を這うように伸びて、形を変えた光は網目状へと変化する。 変化した光がコウモリの合成獣(キメラ)に向かって一直線に飛んでいくが、あと一歩で届くといったところで予想通りコウモリは壁から離れて、召喚陣へと向かったテオドールへと攻撃を仕掛けようと羽をはばたかせる。 「させない!――拘束(バインド)!」 レイヴンが呪文と共に手のひらを握りしめると、光はコウモリの合成獣(キメラ)を追尾してその身体を捉えることに成功し、その身体に帯状の光が絡みついていく。空中で拘束することに成功するのを見届けたテオドールが、自分の魔力(マナ)を込めた足で黒く脈動している召喚陣を擦り、一部を削り取る。 「っし。コレで湧くのは止むな。しっかし、コイツ暴れすぎだろ。レイ、待ってろ――」 テオドールが直ぐさま詠唱に入り、必死になって抑え込んでいるレイヴンを助けるために魔法を放つ。 「――雷の弾丸(サンダーバレット)」 指で銃の形を作り、人差し指から何発も雷の弾丸を放つ。その弾丸全てがコウモリの身体を撃ち抜き、洞窟に不協和音が響いていく。耳の奥がキンとなるような音に舌打ちして、最後に特大の魔力(マナ)を打ち放つ。 「テオ……っ」 「あぁ、これで仕舞いだ――爆ぜろ(バースト)!」 テオドールが指を鳴らすと、弾丸は弾けて無数の雨のようにコウモリの身体に容赦なく穴を開けていく。コウモリが自力では動けないことを確認すると、同時にレイヴンも手を開いて拘束を解く。 「キィィィィィ……ッ――――」 甲高い断末魔を上げると、無惨な姿になって地面へと落下する。身体がピクリとも動かないことを確認すると、レイヴンは長く息を吐いて額に流れた汗を拭う。 「大丈夫か?」 「はい、大丈夫……です。一気に魔力(マナ)を放出したので、クラクラしますけど」 テオドールがレイヴンの頭を撫でたところで、慌ただしい足音が近づいてくる。 「テオドール様!レイヴン!そっちは大丈夫そうですね?」 「ウルガー!そっちも大丈夫そうで良かった。ディートリッヒ様は?」 「黒いローブの男の方へ行かせたんで。あの人、風圧でコウモリを吹き飛ばし始めたから、壁が少しずつ削られてきてさ。本当に洞窟を崩すんじゃないかと思った」 「まぁディーに細かい芸当ができるなんて思っちゃいねぇし。それで、ヤツの行き先は分かったのか?」 テオドールの問いにウルガーは眉を潜める。テオドールが目を細めて先を促すと、溜め息を吐いて、あのですね……と切り出した。

ともだちにシェアしよう!