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150.すべきことは

「それが、ですね。騎士の目の前から一瞬消えたらしいです。でもですね、駆けつけた団長が思いっきり剣を振って切り飛ばしたんで、風圧を巻き起こしたんです。それが当たって」 「当たって?」 「気絶させたそうです」 「アイツ、よっぽど剣が触れなかったことが不満だったらしいな。相変わらずの馬鹿力が役に立つこともあるもんだ」 話しながら洞窟を抜け出すと、ディートリッヒが待つ場所へと騎士に案内される。奥の出口から出て逃走していたと思われるローブの男は、辺りを囲む騎士たちに見つかり追跡をかわしながら森のある方角へと行こうとしていたところ、物凄い勢いで駆けつけたディートリッヒが剣を振り抜いて吹き飛ばした、ということらしい。 「ディートリッヒ様は本当に凄いお方です」 「レイヴン……あのなぁ。ただの馬鹿力だろ。褒めるところじゃねぇし」 「テオドール様も凄いですよー」 「ウルガー、お前ケンカ売ってんのか?」 まさかー!と、適当にやり過ごすウルガーの案内で、ローブの男が転がっている場所まで辿り着く。念のための魔封じの鎖で巻かれている男は昏倒していて動かない。 「来たか」 「相変わらず馬鹿力だな。何も考えてねぇところがお前らしいが」 「捕縛するために振るった力だ。何も考えていない訳ではない。それより、コイツを尋問しなくてはな」 ディートリッヒが足元で転がる男に目線を落とす。今はピクリとも動かないが、起きれば魔物を呼び出して反撃してくるかもしれない為、下手に起こすこともできない。テオドールもその場にしゃがんで男を覗き込む。 「喋る前に舌噛み切るんじゃねぇか?自白薬、今は持ってねぇし。どうすっかな……試しにコイツの魔力(マナ)の大本を辿って……」 「お前、そんな薬も作っているのか?」 「ぁ?貴重な材料使うから、お遊びでは使わねぇし。使うならレイヴンに……」 「師匠!真面目にやってください!」 ふざけたやり取りも混ぜながら、テオドールは手のひらを翳して魔力(マナ)の流れを読む。魔物使い自体は魔法を使用しないが、裏にいる者は召喚陣も自在に使いこなすところを見る限り、魔法の心得が何かしらある者だろう。そう読んでの行動だったが、フッ、と、嫌な流れを感じてテオドールが立ち上がる。 「そこまで遠くないところに大本がいやがる。方角的にはアッチだな」 「その方角は……」 「エルフの里の方角。ただ、方角が一致しているだけで側とは限らねぇ、が。その辺りみたいだ。あくまで痕跡を辿っただけだが、召喚陣を利用してここまで飛んで来ていることを考えると中継地点の一つかもしれねぇな。俺の移動(テレポート)ほど距離は出せねぇだろうし、召喚陣は本来移動に使うものじゃねぇ。何かしら秘密があるんだろうよ」 口調はいつものテオドールだとしても、内容は決して軽視できるものではない。ディートリッヒも無言で男を見下ろしたままだったが、ゆっくりと顔を上げて重い口を開く。 「この男は連行する。一旦陛下に報告し、テオドールの言う場所へと改めて出向く必要があるな」 「その間にいなくなるかもしれねぇし、俺とレイヴンだけでも先行したいんだがな」 「団長、ただでさえ私たちは後手に回っています。ここはテオドール様の言う通りにして、我々は準備をして駆けつけましょう。2人が必要な物があれば準備しますので」 ウルガーがテオドールの意見を尊重し、言い渋るディートリッヒを納得させようと畳み込む。全員の顔を見回した結果、ディートリッヒが折れて、分かった、と、頷いた。取り急ぎ必要になりそうなものはウルガーへと伝言し、レイヴンは急かすようにテオドールの側へ駆け寄る。 「師匠、行きましょう!エルフの里にまた危険が及ぶのは……」 「そういうと思った。なら、一緒に行くのが正解だろ?じゃあ行くぜ、レイヴン」 テオドールはレイヴンの腰を抱くと、移動(テレポート)であっという間に姿を消した。

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