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153.静かな夜に
「魔の森の近くから魔力 が流れているということですか?」
「魔の森自体も同じく結界があるだろうから、中からじゃねぇとしたら近くなんだろ。魔物使いの背後にいるヤツは魔族と絡んでたとしたら面倒だな」
「行くにしても十分に注意した方がいいだろう。私たちもできる限りの協力はしよう。助けてもらった恩と我が息子のためだ」
難しい顔をしたままのレイヴンをクレインが優しく撫でる。擽ったそうにはにかむレイヴンの肩をテオドールがトントンと叩く。
「良かったなァ?今日は父さんと一緒に寝るか?」
「言い方!全く……この人は」
「私は構わないが、テオドールはそれでいいのか?」
「そういやお父様公認だし、ここで……」
慌ててテオドールの口を思いっきり抑え込み、ついでに足をグリグリと踏みつける。
「……まさか、妙なことは考えていませんよね?ぶん殴りますよ?」
「いひゃいやろ!」
「本当に仲が良いのだな」
微笑んでいる父親を見ているとますます何も言えなくなってしまい、レイヴンはテオドールを全力で抑え込みながら、おとなしくしていてくださいね、と。小声で念押しすることしかできなかった。
+++
今晩は早めに休むことになり、調査をしていて気になる箇所の確認だけをして解散し客間に案内してもらった。クレインは一緒に眠るか?とレイヴンに訪ねたが、レイヴンは少し考えたいこともあるからと1人の部屋を希望した。レイヴンの自室も準備中とのことでそちらは次回の楽しみとなり、テオドールも最終的には大人しく別の部屋へとレイヴンに押し込まれた。
「珍しく引き下がったな……いつもなら強引に迫ってくるくせに」
風呂を済ませたレイヴンは濡れた髪をタオルで拭きながら窓際へと向かう。普段見ている景色とは違い、森の中のせいか静寂と暗闇に包まれている。曇っているのか、月明かりも今日は見えなかった。
「そういえばここに座れるんだったな」
円形の窓には腰掛けられるような縁があり、そこに寄りかかれば窓の側で考え事もできる。いつか父親がそうしていたのを思い出してレイヴンも腰掛けてみる。ついでに窓もそっと開けてみると、窓の外にポツリと明かりと煙が立ち上っているのが見えた。
「……外で吸っていることを褒めるべきなのか、ここでも吸うのかと注意するべきなのか……」
声を聞きつけたのか明かりの主はレイヴンの方へと近寄ってきた。吐き出した煙はこの場の雰囲気と全く似つかわしくないが、この人にとっては関係ないからだ。
「お、風呂上がりか?いいねぇ」
「何がいいんですか、何が。テオは……見れば何をしているのかは分かりますけど、まだ休まないんですか?」
「ガキじゃあるまいしそんなに早くから眠くなんてなるかよ。こんなことなら寝酒も頼んでおけば良かったな。こういう雰囲気はやっぱり落ち着かねぇし」
窓際に座っているレイヴンに近寄ってきたテオドールは、壁に背を当てていつもの人の悪い笑みを浮かべて煙を燻らせている。
「早く休めと言ったのはテオもですからね。俺ももう少ししたらベッドに入りますから」
「だから外で一服して落ち着いてたんだろうが。ま、今日はレイちゃんが添い寝してくれねぇからなかなか寝付けないかもな」
「またしょうもないことを言って。毎日一緒に寝ている訳じゃないでしょう?」
「冷たいことで。でもどっちかっつーとくっつきたがるのは……」
意地悪くニィと笑んで顔を寄せてくるので、レイヴンも負けじと睨み返す。
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