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154.ほんの戯れ

「そういうこともありますけど、今日は大丈夫です!何が起こるか分からないですし、俺は体力も魔力(マナ)も、テオほどありませんから……」 「ま、それは仕方ねぇだろ。でも今日は随分活躍してたじゃねぇか。限界までレイヴンが気合入れたから俺も心置きなく魔法をぶっ放せたしな」 テオドールが手を伸ばしてレイヴンの頭を撫でる。いつの間にか片付けられていた煙草は残滓だけを残してレイヴンの鼻孔を擽る。レイヴンにとっては決して好きな香りではないはずなのに、テオドールの香りだと認識してしまうと安心してしまう気持ちもある。そんな気持ちを知られたくないと、いつもの通り文句をつける。 「髪の毛洗ったばかりなんですから、煙草の匂いを付けないでくださいよ」 「じゃあ、代わりに頭でも拭いてやろうか?」 レイヴンが止める間もなく、テオドールがタオルを奪ってレイヴンの髪をわしゃわしゃと拭き始めた。少々乱暴なはずなのに、レイヴンも戯れ自体は嫌ではないので無理には止められない。 「ちょっと!ボサボサにするつもりですか?」 「髪を混ぜてやるのも優しさだろ?」 「どこが……」 テオドールは抗議の声にケラケラと笑いタオルから手を放してレイヴンの肩へと掛け直すと、今度は指先で髪の毛を梳いて整えていく。レイヴンも始めは薄暗くて良く見えなかったが、よく見ればテオドールが楽しそうに笑ってレイヴンの髪を触っていることに気付く。 「……何でそんなに笑ってるんですか」 「いや、大人しくされるがままになってるし。お前の髪に触るのは嫌いじゃねぇからな。それにレイヴンも触られるのは好きだろ?」 「嫌いか好きで言えば、好きですけど……」 「……なあ、もうちょっと愛でてもいいか?」 テオドールがレイヴンの顔を覗き込んで問うと、レイヴンが反射的に固まった。 「愛でるって……」 「アレだ。エロいことはしねぇって。な?」 「その口が良く言う……」 「ま、そこに一緒に座るだけだ」 ひょい、と軽々窓枠を越えると慌てるレイヴンの手を引いて場所を入れ替え、テオドールが窓枠に背をつけて座り込み、そのままレイヴンを自分へと寄りかからせた。 「なっ……」 「これくらいならいいだろ?」 振り向こうとするレイヴンを無理矢理に前へと向かせると、レイヴンを両腕で抱き込んでフゥと息を吐く。 「何、寛いでるんですか……」 「風呂上がりだからいつもより体温高いな。それにやっぱりイイ匂いするな」 テオドールがレイヴンの髪の中に鼻を埋めて、スゥとワザとらしく吸い込む。レイヴンが追い払うように手を伸ばそうとするが、うまく手が届かずに空を切る。 「変態ですか?変態でしたね」 「自己完結するなよ。別にいいじゃねぇか。減るもんでもないし」 「そういう問題じゃないですよね?」 「ケチケチすんなって。レイちゃん不足なんだから補給させろよ」 テオドールは聞く耳持たずにレイヴンの温もりを感じるように強めに抱きしめる。 レイヴンも結局されるがままで動かない。背中越しにテオドールを感じてレイヴンもおとなしくなってしまう。 「おとなしいじゃねぇか」 「俺も……テオが側にいると安心しますから」 「まぁ、大体側にいるけどよ、いつもくっつくと文句言われるしなぁ?」 「それは時と場合によるというか……何かこんな形でくっついてると眠くなりそうです」 程よい温もりは風呂上がりのレイヴンの眠気を誘う。テオドールは珍しくちょっかいをかけずに本当に抱きしめているだけだ。 「本当にぽかぽかしてきて……」 「ベッドに運んでやるから。寝ていいぞ」 テオドールがレイヴンの髪に軽く唇を触れさせても嫌がる素振りはなく、そのまま甘えるように身体をあずけてうとうとし始める。 「ん……本当に眠くなってきたので……」 「あぁ。おやすみ」 テオドールが優しい声色で言うと、安心したように目を閉じてしまいそのうちに眠ってしまった。レイヴンが完全に眠ってしまうとテオドールにも睡魔が襲ってくる。欠伸を逃しレイヴンが熟睡するのを暫く待つ。 「俺まで眠くなってきちまうな……眠くなる前に寝かせてやらないとな」 心地よい体温を手放すのは惜しいが、休ませなくてはいけないことも頭では理解しているテオドールは、優しくレイヴンを抱きかかえて窓枠から降りる。そのままベッドへと運び寝かせるとよく眠っている様子を眺めてから、フッと笑う。 「がらでもねぇが……まぁいいか」 本当に手出ししなかった自分自身に笑いながら明かりを落とすと、来たときと同じようにわざわざ窓枠を越えて外へと出て窓を閉めて静かに去っていった。

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