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155.出発準備

翌日―― ゆっくりと眠れたレイヴンはテオドールと合流し、改めてクレインの元へと訪れた。 前にも食事をした部屋で長机を囲んで共に食事を済ませると、クレインの好意で貴重な装備品や魔道具を見せてもらえることとなった。 「テオが変なことを言うから。その、破れてしまったローブは新調してもいいかなとは思いますけど。本当に図々しい」 「別にいいだろ。優しい里長様がくれるって言うんだからよ」 「別に構わない。私たちは装飾品を作るのも好きでな。時々自分たちで作るのだ」 柔和な表情で2人を案内しながら廊下を歩き、1つの部屋の前で軽く手を翳す。 ブォン、という音と共に、結界が外れて扉へと近づけるようになった。 「結界を張るほどすげぇお宝があるのか。コイツは選びがいがありそうだ」 「はぁ……もう、この人は。お父さん、テオは本気ですからダメなものはダメだとハッキリ言わないとダメですよ?」 「分かった。だが大抵は大丈夫だと思うから好きなものを選ぶといい」 室内は思ったより広々としており、壁や棚にたくさんの武器や道具が置いてあった。テオドールは物を見定めるように目を細め、本気で品定めし始める。 「お、これとか良さそうじゃねぇか。指輪か」 「それはまた良い物を手に取ったな。それは精霊王を呼ぶことができる指輪だ。ただ、あの方たちは気まぐれだから呼ぶことはできてもお願いを聞いてくださるかは分からないが。その指輪にはサラマンダー様の力が込められているな」 テオドールが手に取った指輪は一見シンプルな金の指輪で、中に一粒の赤い宝石が埋め込まれていた。ただ、見る人が見ればその指輪からは神秘的な力を感じることができる。 「それはまた貴重だな。でも流石にエルフ限定だろ、それ」 「どうだろうな?エルフの宝を人間に分けたという文献を目にしたことがないし、精霊たちは本当に自分が気に入れば力を貸してくれる存在だ。エルフとは基本的に仲が良いが、人間でも気に入れば力を貸すだろう」 「そんなもんか。まぁ見た目が気に入ったし、俺の指でも入りそうだからいただくとするか」 テオドールが選んだ指輪も、どうぞ、と言うだけで止めもしない。テオドールは遠慮などせずにさっさと指輪をはめる。レイヴンはそれを見て溜め息をつくがクレインは気にした様子もなく、レイヴンには別の指輪を差し出す。 「これは?」 「レイヴンはウンディーネ様と仲良くなれるはずだ。持っていきなさい」 微笑しているクレインから銀色の指輪を渡される。その指輪の中には一粒の青い宝石が埋め込まれていた。 「お、いいじゃねぇか。同じ指にはめれば分かりやすいだろ?」 さっとレイヴンの手を取ると左手の薬指にはめてしまった。テオドールの左手にも先程の指輪がはめられている。 「本当に仲が良いのだな。何にせよ私は2人を祝福しよう。何よりも息子の幸せが1番大切なことだ」 「い、いやいやいや!その、何ていうか……あぁ、もう!全部テオが悪いっ!」 「なんでだよ。良かったじゃねぇか。これくらいで照れるなよ」 「照れてないから!」 レイヴンは少し赤く染まった頬を隠すようにふい、と、顔をそらしてテオドールから距離を取って別の装備を探しに行ってしまった。そんなレイヴンを微笑ましげに見守る大人2人も顔を見合わせて笑い合う。 「辛い経験をしたであろうあの子がこれだけ素直になれているのも、テオドールのおかげなのだろうな」 「おかげってほどでもねぇよ。俺もアイツのおかげで変われたところもある。こうやって自分勝手できるのもレイヴンのおかげみたいなもんだ」 「あまり振り回しすぎないで欲しいというのもあるが、これからも良き間柄でいて欲しいとは思う」 「アンタはエルフなのに頭が柔らかくて助かるな。人間の方がよっぽど身勝手で汚ぇヤツらばっかりだ。少しは見習って欲しいもんだよなぁ」 皮肉るように吐き出すテオドールの姿にクレインも苦笑を返して大きく頷く。

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