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156.強気な師匠と弱気な弟子

「種族に限らずそういう輩は後を絶たない。皆、少しずつ変化してくればいいのだが」 「だな。アンタとはいい関係が築けると思うぜ、お父様」 「その呼び方はやめて欲しいが、我々はいつでも君たちの味方だ」 クレインから差し出された手をテオドールもニィと笑んで軽く握り返す。 「おー。俺もたまにはやる気を出さねぇとな。もらった装備の分も含めて、憂いは全部ぶっ潰してくるから安心してくれよ」 「それは心強いな」  二人が会話していると、一人で装備を見ていたレイヴンがまた戻ってくる。  二人の顔を交互に見て不思議そうに首を傾げた。 「二人で何を話しているんですか?」 「別に大したことじゃねぇよ。で、何か良いモノはあったのか?」  レイヴンの頭をひと撫でして、テオドールもレイヴンと一緒に装備をまた探しに行く。  そんな二人の様子をクレインは優しく見守る。 +++ 「こちらでも引き続き調査を続けていく。二人とも、気をつけてな」 「はい。お父さんも」 「色々と世話になったな。これからも世話になるつもりなんでよろしくな、お父さん」  ローブを含めた装備も新調し、魔道具や装飾具を幾つか手に入れることができた二人はクレインに別れを告げて里を後にする。  里を出てすぐにテオドールが探知(ディテクション)を展開し魔力(マナ)に絞って探ると、前に感じた違和感を強く感じた。 「これは人なのか、無機物なのか……何にせよあまりイイもんではなさそうだ」 「方角はやはり……」 「魔の森の方角だ。が、森の中ではない魔の森に近い場所なのかもしれねぇな。そこに何か不穏なものがあることは確かだ」 「……行きましょう」  レイヴンが決意を固めた表情でテオドールを見上げてくる。  テオドールもレイヴンを安心させるように肩をトンと叩き、頷いて歩き出す。 森の中は静かで、歩き続けても変わった様子はない。 似たような景色が続き迷ってしまいそうになるが、テオドールはしっかりとした足取りで一直線に歩きつづける。 「そんなに生真面目な顔をし続けて、疲れるだろ」 「でも。もしも、魔族だったら。俺は足手まといに……」 「またそうやって悲観的になるんだよなぁ、俺の弟子は。まぁ、緊張するのは分かるけどよ。足手まといにはならねぇよ」  テオドールはニィといつもの不遜な笑みを向けるが、レイヴンは緊張感で表情が固まってしまって普段の余裕がなくなってしまっていた。 「そう、言われても……」 「お前は大事なことを忘れてるだろ。レイヴン、俺のやる気の源は何だと思う?」 「……お酒と煙草ですか?」 「それもある意味間違っちゃいねぇが。俺は世界の平和とか、そういうのはどうでもいいんだよ。お前といるのが楽しければそれでいい」  ハッキリと言い切るテオドールにレイヴンも聞き入ってしまう。  一旦歩みを止めると、テオドールはさらに顔を近づけて笑いかける。 「俺がお前のことをどう考えているのか。俺に口から言わせたいとしか思えねぇが。仕方ないから何度でも言ってやる」 「テオ……」 「レイ、お前が思う以上に俺はお前のことを大切だと思ってる。だから、側にいてくれればそれでいい。勿論、戦力としても期待してるぜ? 俺の一番弟子なんだからよ」  レイヴンが言葉を飲み込むまでに一瞬黙り込むが、そのうちに驚いたように顔を赤くして慌てた様子で声を上げる。 「そ、そういうこと、今、言います?」 「言って欲しそうな顔してたしなァ?これくらいで驚いてどうすんだよ。いつまでも慣れねぇのも可愛いが、もっと身体に教え込んだ方が……」 「それどころじゃないでしょう!もう!……でも、ちょっと落ち着きました。ありがとうございます、テオ。すぐ不安になってしまって……ごめんなさい」 「別に謝るようなことでもねぇし。魔族と聞いてビビらねぇほうがおかしいしな。俺もビビちゃいねぇが面倒臭ぇと思ってるくらいだからよ」 「それはいつもじゃないですか」  テオドールの言葉に安心したレイヴンは、落ち着きを取り戻しテオドールに笑い返す。 「どうなるか分かりませんけど、俺の隣にはテオがいるから。もう、大丈夫です」 「よし。まぁ、ヤバそうだったら適当に仕掛けてディーたちを待つのも手だし。やりようなんて色々とあるんだからよ。ま、腹立つから鼻っ柱にぶっ放さねぇとな」 「逃げる前にやる気じゃないですか……お願いですからエルフの森に影響のない範囲でお願いします」 「ま、なんとかなるだろ」 「適当すぎる……」  軽口を叩きながら違和感の正体へと、一歩、一歩、近づいて行く。

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