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157.辿り着いたその先には
二人で森を進んでいくと、また似たような光景が目に飛び込んできた。
森と森との境界に当たる位置、そこにはまたぽっかりと穴を開けた洞窟があった。
「テオ、これは……」
「代わり映えしないが、また中にあるんだろうな。何かが」
「探知 でも感じたのがここだったということですよね」
「あぁ。何か胸糞悪ぃ感じがするし、同じやり方で中を覗いてみるか」
テオドールが認識妨害と防音結界を展開し、テオドールの後にレイヴンが続く形になった。
先を照らす灯火 はレイヴンが唱え、辺りをふわりと照らす。
湿っている洞窟内で足を滑らせないように慎重に歩みを進めて行くと、やはり奥に開けた空間が現れる。
「今度は何が……」
レイヴンが言いかけた瞬間――
明かりを目がけて、ヒュッと空間が切り裂かれる。
音と目視で軌道が見えていたテオドールがレイヴンを自分の懐に引き入れると、明かりのみが消滅する。
「チッ。明かりだけ察知されたみてぇだな。気配が俺たちを探してんな」
「い、今の……何が飛んで……」
「空を切り裂く刃……妨害と防音はまだ効いてるから、正確な場所は掴めねぇはずだが……」
暗がりの中、気配が二人の元へと近づいてくる。
漸く目が慣れてきたところで、近づいてくる気配の正体が朧気に見えてきた。
「え……何で!」
「どういうことだ。コイツ、まさか逃げ出したり……いや、そんなヘマするわけねぇか。双子だったとかそういうオチかぁ?」
目の前に見えたのは、先日捕えたばかりのローブの男に見える。
まだ目が慣れないため確実ではないが、雰囲気が酷似していた。
「飛んできた刃がこの前の合成獣 だとすれば、完全に同じヤツと見るしかねぇ」
「無力化させますか?」
「そうだな……レイヴン、できるか?」
テオドールは現在魔法を同時に二つ行使しているため、これ以上の行使は防音と妨害の質が落ちる可能性がある。
そのことを察したレイヴンは、頷いて呪文を紡いでいく。
「麻痺せよ !」
レイヴンが手を翳すと、男の方向に不可視の絡みつく糸が何本も伸びていく。
魔力 で紡がれた糸が身体の自由を奪うと、男は声すらも発せられなくなる。
「――眠れ 」
続けざまに魔法を放ち、有無を言わさず無力化させる。
魔法耐性があろうとも連続で放つと効果が倍増するため確実に狙うのならば、重ねがけするのは戦略の基本の一つだ。
「よし、このまま奥に進むぞ。レイヴン、コッチに来い」
テオドールはレイヴンを自分の側に引き寄せて、懐に入れたまま奥へと進んでいく。
普段ならば文句でも出そうなところだが、明かりもない今はテオドールの側にいる方が何かと都合がいい。
さらに奥へと踏み込むと、暗がりで明滅している魔法陣と実験器具のようなものがズラリと並ぶ開けた空間が現れた。
先程沈黙化した者以外の見張りはいないらしく、二人で用心深く近づく。
「なんだこりゃ? 合成獣 の研究所か」
「あまり直視したくないものが見えている気がします。明るいところでは見たくないですね」
液体の入った大きな筒に見たことのないような、気味の悪い生物が泡を出しながらぷかりと浮かんでいるのが分かる。
テオドールは少し思案すると筒に手をあてた。
「――凍れ 」
筒と辺りがビキビキと音を立てて凍りついていく。
中の生物も生命活動を静止したのか、氷の彫像のように動かなくなる。
「破壊しなくて良かったのですか?」
「一体何をしていたのか知る必要があるからな。単純に凍りつかせただけだが、この氷を解くことはできやしねぇよ」
「壊さないだなんて、珍しいなと思いまして」
「俺が適当にぶっ壊すのが好きだと思ってるだろ? まぁ、それも嫌いじゃねぇしソッチの方が楽なんだよな」
テオドールはニィと笑ってみせるが、魔法陣が怪しく光ったことに気付き舌打ちしながら距離を取る。
「……来やがったな」
「まさか、この魔法陣が召喚陣を兼ねてるんですか?」
「だな。後で壊すとして、まずは出方を見るか。気に食わねぇが」
ヌッと召喚陣から人の形をしたものが現れる。
一人目は黒いローブに身を包んだ男、もう一人も黒いローブに身を包んではいるが、一人目とは雰囲気が違う男のようだ。
現れた瞬間に机の上においてあった燭台に火を灯す。
「な、な……」
「……落ち着け、主よ。まさかここまで探られるとは」
主と呼んだ方の男は捕まっているはずで、先程沈黙させた男と同一人物に見える。
もう一人の男は見た目が違い、腰までの長い白髪の男でいかにも神経質そうな顔をしている。
「私の可愛い合成獣 たちも凍りついて……これでは実験を進められない! もっと魔力 を奪い、注ぎ込まねばならないというのに!」
「主、落ち着け。我々がここを出る前には何事もなかった。と、言うことは……敵がまだ潜んでいる可能性がある。連絡を取る前に兄弟たちの反応が途絶えていることから鑑みて……」
魔物使いと思われる男の方が冷静だ。
しかし、白髪の男からも不気味な存在感を感じる。
緊張するレイヴンを自分の方に引き寄せて、テオドールもこの状況について考えを巡らせた。
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