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168.別々の部屋で
テオドールは煙草を吸いたい気持ちを一旦我慢し、指先でレイヴンの髪を梳くように撫でる。
レイヴンは傍らの師匠の様子が気になったらしく、腕の中でそっと見上げてきた。
「師匠?」
「俺らも戻って対策でもたてねぇとな」
可愛い弟子を抱き寄せながら、テオドールは、なぁー? と楽しそうに笑む。
レイヴンはすぐさま反応してテオドールに不審な視線を向けてくる。
テオドールが返事の代わりに身体ごとすっぽりと腕の中に埋めると、腕をバタバタとさせた。
「……うわぁ、凄く嘘っぽいですね。さすがテオドール様」
「テオ、本当に頼むぞ。ウルガー、俺たちもできうることは全て対策して来るべき時に備えよう」
テオドールは不憫な副団長の肩をポンと叩き、さっさと魔塔に戻るべく指をパチンと鳴らす。
訓練場は中庭に近いため、魔法で飛んで帰ることができるのが利点だ。
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魔塔に戻ってくるとふざけるのかと思いきや、テオドールは自室の小部屋にこもるからとレイヴンと別れた。
レイヴンは久しぶりに一人になった気がして不思議な気持ちになったが、本当に真面目に何かをするつもりなのだろうと自分も自室に戻る。
「一体どういうつもりなんだろう? また俺に見られたら困ることなのかな」
前のように浮気などと疑ったりはしないが、なんだか物足りないと思ってしまう気持ちに気づく。
「触れられるのがすっかり当たり前になってしまったから、妙な気持ちになるんだよな。全く誰のせいなんだか」
レイヴンは文句を言っているはずなのに楽しそうな声色の自分に笑ってしまう。
それくらいテオドールに慣らされてしまったということなのだろう。
「俺もできうる限りのことをしよう。テオの足を引っ張るわけにはいかないから、少しでも勉強して練度をあげていかないと」
改めて決意を固めると自分の勉強用として書き留めている本を手に取り、まずは用意した本を読み解きながら魔族への見解を深めることにした。
+++
片っ端から様々な書物を読み進めていると文字が見づらくなってきて、室内が暗くなってきたことに気付く。
一度立ち上がって部屋の明かりをつけてから、気分転換にテラスへと足を伸ばす。
「日が落ちるのが早い気がするな……」
新鮮な空気を吸おうと足を踏み出すと、見慣れた光景が目に飛び込む。
上を見上げると、ポツンとした光と煙が同時に見えた。
「……ワザとじゃないよね? なんでテラスにいるんですか、テオ」
レイヴンは燻らせている煙を目ざとく見つけてしまって、苦笑する。
どうせテオドールのことだから自分の独り言だって聞いているのだろうと、珍しく自分からテオドールへ話しかけた。
すると、上から愉しそうな笑い声が振ってくる。
「さぁなぁー? 気が合うんだったらいいじゃねぇか」
「休憩がいつも被る気がするんですが。俺が出てくるのを絶対に待ってますよね?」
煙が見えなくなったかと思うと、いつものようにテオドールがパッと俺の目の前に現れる。
相変わらずのニヤニヤ顔にも慣れてしまったし、もうその顔すら安堵してしまう。
優しいテオドールは慣れないけど、余裕たっぷりなのはいつものことだ。
「お、文句言わねぇのか?」
「言って欲しいなら言いますけど……いいんですか? 俺といても。集中できないんじゃないですか? 構いたくなるでしょう、俺のこと」
テオドールへ挑発のつもりで声をかけたのに、どっちかと言うとレイヴンの方が構って欲しい気がしてくる。
何度満たされても、足りなく思うだなんてどうかしてると思うのに溢れてきた気持ちは止められない。
「言ってくれるじゃねぇか。折角一人の時間も必要かと思ったのによ」
「まぁ……それもそうなんですが」
言って、レイヴンからテオドールへ一歩歩み寄った。
レイヴンは煙草の香りすら、好きになってしまったらどうしようと心の中で焦る。
テオドールがさっきまで吸っていたせいか、香りが濃い。
テオドールのぬくもりを求めてしまうと、レイヴンも自分の気持ちにはもう抗えない。
遠慮がちに両腕を伸ばし、テオドールの腰へ回して身体を寄せた。
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