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169.珍しく戸惑う

「なんか、こうするのが当たり前みたいになってしまって。俺……」  テオドールは顔をあげずにくっついているレイヴンを上から見下ろす。  熱を持つ頬を両手で包みこんで、レイヴンと見つめ合う。 「全く。これでも我慢してるのによ。そんな可愛いことされると、参るよなァ」 「テオは、そんなに嬉しい……?」 「俺のことを突っぱねるレイヴンも可愛らしいが、素直なレイヴンは堪らねぇな」 「す、素直って……」  テオドールは、ここまで可愛く育てたという親心のようなものと、自分のモノだから好き勝手にしてもイイという気持ちがぶつかりあい、戸惑う。  レイヴンはテオドールの表情を察したらしく、ほっと息を吐き出した。 「俺が思っていることを全部ぶちまけると大変なことになるから言わねぇが。レイヴンが俺のことを意識するより前から、俺は自分のモノにしたいって思ってたからな」 「え……? 大変なことって……いや、それは聞くのが怖いから聞きませんが。そもそもいつから俺のことをそういう意味で……その、抱きたいって意識してたんですか?」 「あー……最初から?」 「最初って……」  テオドールが言いづらそうに伝えると、レイヴンは驚いた表情で珍しい師匠を見上げながらジッと見つめてくる。  視線に答えるように目元を和らげ、レイヴンの頬を指先で擽る。 「初めてレイヴンに出会った日、だな」 「は……? その時、俺は子どもで……」 「別に変な意味じゃねぇよ。レイヴンの目に惹かれたっつーか。その時に側で成長するのを見てみてぇなって思った」 「……テオが言うと変な意味に聞こえるんですが」  レイヴンが分かりやすく疑うように視線をぶつけてくる。  抗議のつもりで、長く息を吐き出した。 「あのなぁ……いくら俺でも子どもに突っ込んだり……」 「最後まで言わなくてもいいです! もう、分かりましたから!」  レイヴンがいつもの溜め息を吐きながら、また分かりやすく照れ始めた。  テオドールはコロコロと変わる表情を眺め、フッと笑う。 「お前は荒んでいたのに、その眼だけは力があって。顔薄汚れて髪もボサボサ、服も今みたいに上等じゃなかったのに。凄く惹きつけられた。だから、自然と一緒に来るか?と誘ったんだよ」 「……恥ずかしいからあまり思い出したくないですが、初めて会った日は覚えてます。俺も不審感しかなかったのに……その手を掴んだ。だから、今、ここにいるんです」 「だな。あの時誘っておいて良かったぜ。まぁ育てていくうちにそれだけじゃ足りなくなっちまったから、参ったよなぁ」 「足りなくなったって……そういう? だから、俺のことを……」  レイヴンはごもごもと言い淀みながら、困ったようにジッと見つめてくる。  テオドールはニッと笑って返し、身体を屈めて額を合わせた。 「あぁ。全て自分のモノにしたくなった。心も、身体も。独占したくなった」 「……子どもの俺にも欲情していたらただの不審者じゃないですか……」 「だから、そこはギリギリ節度を保ってだな。お前が成長するまで待ってたんだけどな」 「なのに、勢いで奪われた俺は泣いていいですよね」  レイヴンが泣く真似をしてくると、テオドールは自分の行いを振り返ってバツの悪そうな顔をする。 「悪かったって」  と、苦笑しながら謝る。  テオドールの素直な言葉が聞けて嬉しかったのか、レイヴンは楽しそうにクスクスと笑った。

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