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170.今だけはこのままで

 レイヴンはじっと、挑戦的な表情でテオドールを見つめてくる。  テオドールは額を離し、返事の代わりに指先でレイヴンの頬を擽っていく。  見つめ合ったまま暫くお気に入りの頬の感触を楽しんでいると、レイヴンが先に口を開いた。 「俺が魅力的すぎて我慢できなくなったんですね? 俺はそんな風に思ってなかったのにな」 「自分で言うな、自分で。ったく、鈍感すぎんだよ。どれだけ俺が特別扱いしてると思ってんだよ」 「今は……一応。分かりますよ? だから、側にいたいって心から思えるようになったんです」  レイヴンの方から甘えるようにテオドールの手に頬を擦り寄せてくる。  テオドールも自然と優しく笑んで、柔らかい頬の感触を手のひら全体で楽しむ。 「ホント、鈍感な弟子を持つ師匠は困るよなァ?」 「だって、テオはふざけたことしか言わないから分かりづらいんです。いつも真剣に言ってくれればいいのに……」 「そういうの柄じゃねぇんだよ。毎回やってたら笑う癖によ」 「それは確かに。病気を疑うかも?」  レイヴンがおかしそうに酷いことを言い放つ。 「あのなぁ、病気ってなんだよ病気って」  と、テオドールは苦笑いのまま言って優しいキスを落とす。 「ん……」 「……なぁ、どうせ色々巻き込まれるんだろうしよ。レイちゃんを今堪能してもいいよな?」 「またすぐそういうことを……って。いつもなら言いますけど。俺も、同じ気持ちだから」  テオドールは壊れ物を扱うようにやんわりと、ちゅ、ちゅと繰り返し軽く唇を触れ合わせていく。  キスを続けながら、レイヴンの身体をスッと横向きに抱き上げる。  レイヴンは慌てながらテオドールに身体を預けて、少し顔を起こすと苦笑を向けてきた。 「もう、俺を抱き上げるのも好きですよね? これ、結構恥ずかしいのに」 「そうやって恥ずかしがることも含めて気に入ってるんだよなぁ。こうすると大人しくなるし?」 「……大人しくって……俺、いつも暴れているみたいじゃないですか」 「暴れてはいねぇけど、嫌がるだろ。俺が色々触ると」  テオドールがやや不満げに呟いたせいか、レイヴンが困ったように俯きながらテオドールの服をきゅっと掴んでくる。 「嫌、なんじゃなくて。恥ずかしいんです。でも……もう触れてもらわないと寂しくなってきてというかなんというか……もう、分かるでしょう?」  レイヴンは一息で言い切ると、チラと上目遣いでテオドールを見上げてくる。  「そうかそうか」  と答えて、笑う。  テオドールは、レイヴンが自分に依存しているのなら都合がいいと笑みを深めた。 「ここまで来るのが長くて、俺はどれだけ冷たい仕打ちに耐えてきたんだか、分かんねぇな」 「冷たいっていうか、それはテオがきちんとしていないからですよね?」 「きちんとってなんだよ。アレか?今からキスするぞ、とか言えばいいのか?」 「そういうことじゃなくって、って……もう。分かってて言ってるでしょう?」  軽い身体を抱いたままレイヴンのベッドまで歩き、一旦ベッドの上に腰掛ける。  レイヴンを膝の上に乗せたまま愛でていると、レイヴンも身体を起こしてきてテオドールの首に両腕を引っ掛けてきた。  じぃっと、まるでキスを強請るように見つめてくる。 「随分と大胆に誘ってくるじゃねぇか」 「俺だってそういう気分のときくらい、ありますよ」  レイヴンはクスリと笑みを零して、テオドールへ顔を近づけてくる。  早くキスをしたかったと言わんばかりに、また優しく唇を触れ合わせてきた。

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