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176.たまには瞑想する師匠と神妙な面持ちの弟子

   テオドールはレイヴンの作った料理を食べきり少しお腹も落ち着いた頃合いを見て、少し低めの声で話しを切り出す。 「昨日な、真夜中に呼んでもねぇ使者ってヤツが来たんだよ」 「使者って……」 「魔族だな。準備が整ったんだってよ」  テオドールはあっさりと言い切って、コーヒーを啜る。  茶化したような口調って訳にもいかないし、先のことを考えたら気怠くなってくる。  どうしても真剣になる話の展開に、嫌気がさしてきた。  レイヴンはテオドールの話を静かに聞きながら、紅茶のカップを傾ける。 「もう、行かなくてはいけない、そういうことですか?」 「いや、まだ猶予があるらしい。少し焦れさせてやればいいだろ。待つって言ったんだから、待たねぇってことはないはずだ」 「そんな、もし魔族が街に現れたりしたら……」  レイヴンは予想通りの不安そうな表情をテオドールへ向けてくる。  弟子を安心させるように師匠が腕を伸ばして、ふわふわと頭を撫でた。 「アイツらは約束を破ったりしねぇよ。むしろ自分らの愉しみのためなら、うずうずしながら準備を待つんじゃねぇか? それを利用してだな、お前にはやってほしいことがある」  テオドールは敢えて真剣な眼差しをレイヴンへ向ける。  レイヴンはテオドールの意図を組むように、しっかりと視線を受け止めると静かに頷いた。  テオドールはレイヴンにこれから取り組んで欲しい内容を順に説明していく。 「分かりました。俺からもお願いしてみます。テオはどうするんですか?」 「俺は俺で準備しておく。新しい魔法も作ってみるつもりだしな。今の俺で使えるか分からねぇが。本来は俺の師匠が使ってたもんだし、それを自分で使えるように上手く組み直してみようと思ってな」  二人で頷き合い、ゆっくりと立ち上がる。  レイヴンはテオドールに対して残った食器の片づけを手伝えと言いきって、重い空気を吹き飛ばすようにテキパキと指示を飛ばしてくる。  テオドールも苦笑して、おとなしく手伝いをはじめた。  少し話してからお互い戦闘の準備をするために、一旦別行動を取ることになった。 +++  テオドールは一人研究部屋に籠り自分で書き綴っている本を何冊も広げ、頭の中で魔法を構築していた。  目を瞑り、瞑想するように集中する。  普段は適当だが、テオドールも魔法に関しては真摯に向き合う。  魔法について考えることは昔から好きだったからだ。  今の状況は少々切羽詰まっているが、息を長く吐いて心を落ち着かせる。  そして、一から新しく魔法を組み上げていく。 「どうしても、ココで詰まるんだよな。原理の理解が足りていないからか? クッソ、師匠がいたら楽だったのによ」  今はいなくなってしまった人を思い出しても仕方ないことだが、師匠の知識量は今のテオドールすら凌駕していただろう。  テオドールは自然と腹が立ち、いつもの癖で苦々しげに舌打ちする。  テオドールの師匠は知識をひけらかしたりする人ではなかった。  ただ、周りからは変わり者としか思われていなかっただろう。 俺自身魔法に関しては誰にも負けねぇ自負はあるが、同時に焦りもある。  伸びしろのあるレイヴンと違って、テオドールが更なる高みに到達するためには殻を破る必要がある。 「あぁー……一旦ヤメだ! あともうちょいだってのによー」  机の上に転がした煙草の箱を手に取り、素早く一本取り出す。  マッチが見つからず、仕方なくパチンと指先を慣らして小さな炎を生み出して火を付けた。

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