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177.常にいるのが当たり前で

      テオドールが吸っている煙草の煙が室内に広がっていく。  嗅ぎなれた香りを肺へ落として目を瞑り、また思考を巡らせる。  複雑に絡み合う紐を解いてまた結び直していく作業を、頭の中で何度も繰り返す。 「そうか。もっと単純に考えりゃいいんじゃねぇか。これなら、使える」  テオドールはパッと目を開くと、思いついたものを書き進めていく。  独特の癖字のせいもあって、書かれた文字を仮に誰かが覗き見ても内容が分かるのはレイヴンくらいだろう。  一気に書き終えると、ふぅっと煙を吐き出した。 「これが出来ちまえば、後はどうとでもなるだろ。俺はこれくらいしかできねぇが、レイヴンは秘めてる才能があるから俺以外のヤツに習えばもっと伸びるはずなんだよな」  テオドールがレイヴンに指示したことは簡単だ。  エルフの里へ行って、精霊魔法をもっと使いこなせるように父親に教えてもらえと指示をした。  レイヴンを自分の側から離したくないが、テオドールは精霊魔法が使えない。  だからこそ、テオドールは魔塔に残って自身ができることをすると決めた。 「っていうのに、少し離れるだけでもなーんか物足りねぇよな。このイラつきはあの魔族野郎に全部まとめてぶつけてやらねぇと気が済まねぇ」    レイヴンもだいぶ懐いて心を許すようになったというのに、わざわざ遠くに行かせなくてはいけない選択を迫られたことに苛立ちが募る。  夜の営みも最近はより積極的で、可愛らしく甘い声で強請ってくる。  愛撫すれば白い肌が桃色に変わっていき、テオドールだけを見つめて名前を呼びながら可愛らしく蕩けた顔を覗かせるのも堪らない。  夜のレイヴンの姿は、テオドールだけが見ることができる特権だ。  優越感と征服感に浸れる瞬間だというのに、暫くお預けする羽目になってしまった。  テオドールは発端が魔族のせいだと改めて思い直すのと同時に、レイヴンを今すぐ押し倒したい衝動に駆られる。 「チッ。今想像するんじゃなかった」  乱暴に煙草を灰皿に押し付けて、火を揉み消した。  頭に浮かんだ欲望を振り払うように、黙々と文字を書き綴っていく。  しかし、文字は更に乱れてテオドールの頭の中をかき乱す。 「クソ……ぁー仕方ねぇ! 行かせる前にヤる。集中できねぇ」    机に両手をついて立ち上がると、さっさと研究部屋を後にする。  テオドールはテラスへ出て、レイヴンの自室へと感情の赴くまま|移動《テレポート》する。 「……テオ?」  レイヴンは、セルリアンブルーの魔石が付いている一枚葉の金の耳飾りを外しているところだった。  無遠慮にテラスから室内へと入ってきたテオドールに少々驚きながら、首を傾げた。 「明日から行けそうか?」 「はい、大丈夫だそうです。なので、暫く留守にします……けど。テオ、やることがあったんじゃ……」  テオドールは有無を言わさず、レイヴンを抱きしめる。  身体を屈めてレイヴンの肩に顔を埋め、抱きしめたまま動かない。 「どうしたんですか?」 「行く前に、抱いていいか?」  耳元で囁くと、レイヴンが慌てて少し身体を離してテオドールの瞳を覗き込んでくる。 「昨日、したばっかりなのに……」 「俺が考えてた魔法の構築は、詰まってたヤツはできたんだけどよ。この後レイちゃんと暫く会えねぇなと考えたら、ヤるしかねぇと」 「だから、言い方! はぁ……弟子離れできない子どもですか?」 「しょうがねぇだろ。したいもんはしたいんだし」  本当はテオドールの方がレイヴンから離れられなくなっている。  一度抱いてからは身体を重ねるごとに依存が増してきて、今は一時も離れたくない気持ちが強い。  子どものように駄々をこねると、レイヴンは仕方ないなという表情を俺へ向けてからクスクス笑い始めた。 「俺より寂しがってどうするんですか。でも、テオから離れるのは久しぶりだし俺も同じ気持ちになるはずだから」  いいですよ、とレイヴンは優しく微笑みかけてくる。  テオドールも、ニッと笑うとチュッと優しくキスを落とした。  

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