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178.戯れる師匠と弟子

 テオドールがレイヴンの首元に顔を擦りつけると、擽ったそうに身をよじられる。  逃さないように唇を押し付けて肌を吸い上げると、レイヴンからヒャッと高い声があがる。 「ちょっ! もう、変態すぎませんか?」 「なんだよ、くっつかれるの好きなんだろ?」 「くっついているのは好きですけど……匂いを嗅がれるのは別に好きって訳じゃないです」  テオドールはレイヴンの首元から顔を上に向けて見上げると、レイヴンが困ったように視線を泳がせた。 「そうかぁ?」 「そんな目で見られても、困るのでやめてください」 「いい匂いなんだから、気にせず楽しもうぜ」 「言い方が変態すぎませんか? やり方が気持ち悪いですけど、少しの間戯れるのもお預けですからね。いいですよ、テオにつきあってあげます」  今日のレイヴンはやたらと上から目線な言い方をして、主導権を握ろうとしているようだ。  テオドールも、そういうことならとレイヴンに合わせて甘えていく形で愉しもうと笑いかける。 「なぁ、レイちゃん。離れると寂しくなるから優しくしてくれよ」 「うわぁ……猫なで声のテオとか! 鳥肌たつー」  レイヴンはいかにも気持ち悪いと言った顔を見せてくる。  わざとらしく丁寧に腕まで擦る仕草を見て、テオドールも不服そうな声をあげる。 「おいおい、寂しい気持ちは一緒なんじゃねぇの?」 「寂しいのは嘘じゃないですけど……じゃあ、テオ」  レイヴンは微笑んで、テオドールの手を掴んで引っ張ってきた。  テオドールは引かれるがまま大人しくついていくと、ベッドまで誘導される。 「ほら、座って」 「お、甘やかしてくれるのか?」  テオドールがニヤついて腰かけると、レイヴンは苦笑してから自分の膝をポンポンと叩いた。  これは膝枕をしてくれるということだろうか?    テオドールはレイヴンと身体を重ねるという己の欲望を満たすため、行為に耽る気満々だった。  だが、レイヴンはこの話題をテオドールが口にしていたことすら吹き飛んでしまったらしい。  物足りなさはあるが、レイヴンが甘やかしてくれると言うならばテオドールも不満はなかった。    誘導されるがまま、大人しくレイヴンの膝の上の頭を乗せる。  レイヴンはテオドールの髪を結んでいた紐を取ってしまうと、髪を梳くように撫でてきた。  テオドールは、やわやわと滑るような感触をくすぐったく感じる。  同時に、気持ちは満たされて穏やかになっていく。 「いつもされるばっかりですからね。たまにはいいでしょう?」 「これはこれで悪くねぇな。レイちゃんは俺が満足するまで甘やかしてくれるなら、されるがまま大人しくしてやるよ」 「口調は可愛くないですけど、俺も大きな動物を可愛がってると思うことにします」  クスクスと楽しそうな声が上から降ってくる。  レイヴンは飽きずにテオドールの髪の毛と戯れて楽しそうにしているが、レイヴンと違ってそんなに触り心地のいいものではないはずだ。  レイヴンにとって何が楽しいのか、テオドールはよく分からなかった。  だが、テオドールに触れて楽しんでいるレイヴンを見ているとテオドールも素直に嬉しく思えた。 「なんだよ、ずっと楽しそうだな」 「そうですか? テオが従順だからかな」 「俺はいつでもレイちゃんには従順だろうが」 「ホント、言うことやること適当ですよね」  横目で確認すると、レイヴンは少しだけムッとした顔でテオドールの顔を覗き込んできた。  テオドールが笑って返そうとすると、先に目尻へキスされた。  

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