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181.たまには真面目な魔塔主
次の日、テオドールはレイヴンを父親のいるエルフの里の入口まで移動 で送り届けた。
行ってきますと言った顔が若干寂しそうに見えたから頭を撫でてやったが、レイヴンの方からぎゅっと抱きついてきた。
寂しがるレイヴンを見ていると一緒にいてやりたくなるが、適当な軽口を言うと大人しく里の結界を潜っていった。
テオドールのやることも終わり次第、エルフの里まで迎えにくると約束してある。
次に甘えてきた時には、たっぷり可愛がってやろうと口端で笑む。
「さて、どっからやるか。まずは俺らが留守にしている間の指示系統についてと――」
魔塔主の執務室で真面目に仕事をしてるのも久しぶりだ。
レイヴンも不在の場合はテオドールがやるしかないので、仕方なくだ。
机の上に置かれた紙の束に目を通し、分類分けしていく。
面倒な作業はレイヴンが引き受けてくれていた。
テオドールが確認しないといけないものだけレイヴンから手渡されていたので、テオドールは楽ができていた。
昨日までの分はレイヴンによって全て分けられていたから手間が省けたが、今日届いた分は最初からテオドールが見ていかなくてはならない。
「面倒臭ぇな。やっぱレイちゃんがいねぇとなぁ」
有能な補佐官がいないとやはり不便だ。
暫くは雑務をこなし、一服したところで執務室を出て魔法使いに指示を出しに行く。
レイヴンがいないと、魔法使いたちはやたらとビビるためテオドールから話がしづらい。
魔塔主様のどこが怖いんだろうかと、魔法使いたちの前でニヤリと笑んだ。
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「――以上だ。暫くは任せきりになるだろうが、何か問題がある場合は魔道具で連絡してこい」
「かしこまりました。なるべく魔塔主様のお手をわずらわせないように致します」
「あぁ、頼んだぞ」
魔塔主様のやるべきことは済み、当分の間の予定も補佐官の補佐という役回りの者へ引き継いだため魔塔のことは問題なさそうだ。
後はテオドールも魔族との戦いまでに準備しなければならない。
「買い出しついでに飯でも食ってくるか」
女将のところに行くのも悪くないだろうと、自然と笑む。
そうと決まればさっさと済ませようと、テオドールは一旦自室へと戻る。
魔塔の階段を下りるより、テラスから飛んだ方が早い。
テラスに移動し、城下町へ移動 で飛ぶ。
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城下町に到着してだらだらと歩いていると、店先で果物を言っているおばちゃんが寄ってくる。
新鮮なリンゴを一つ買って齧りつくと、おばちゃんはテオドールの周りを見回してから苦笑を向けてくる。
「魔塔主様、今日はお一人ですか?」
「あぁ。レイヴンがいなくて残念だったな」
「確かに。華がないと寂しいですねぇ」
「おいおい、言ってくれるじゃねぇか」
街の住民は相変わらずレイヴン贔屓だ。
おばちゃんも可愛い子が好きってのは分からんでもないのだが。
だとすれば、何故テオドールに話しかけてくるのだろうとおかしくなって笑む。
おばちゃんに別れを告げ、薬屋へ向かう。
テオドール一人だと、薬も自由に買える。
いつもレイヴンがやたらと勘ぐってくるせいで、自由に買い物もできないからだ。
店で売ってるものなんてテオドールが作ったものより安全なはずだというのに、難癖のように止めてくるレイヴンを思い出して微笑した。
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