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182.いつも真面目な弟子
テオドールに見送られながら、レイヴンはエルフの里の結界を潜る。
レイヴンが討伐に行く時は一人の時もあるしいつもテオドールと一緒だという訳ではなかった。
テオドールから離れることを寂しく思うのは、レイヴンにとって親離れできていない子どものような感覚なのかもしれない。
テオドールの存在がより身近になってしまったからこそ、より寂しくなってしまう。
レイヴンがテオドールを好きだという気持ちそのものなのだろう。
しかし、今は恥ずかしさもあるしそれどころではない。
レイヴンは気持ちに蓋をしようと、気持ちを心の中にしまい込んだ。
「レイヴン、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。お父さんこそ、わざわざ迎えにきてくれたんですか?」
レイヴンは少しぼんやりとしてしまったようだった。
気づくと目の前に父親であるクレインとクレインのお付きの者であるレクシェルがいた。
レイヴンは里長自らだなんていいのだろうかと遠慮をしてしまうが、横にいるレクシェルはニッコリと微笑んでいる。
だから父親に甘えていいということなのだろうと、レイヴンも納得して照れた笑顔を返した。
「家族なんだから当たり前だろう。それよりも大変なことになったな。テオドールも色々と考えているのだろうが、彼の言う通り精霊魔法に関しては我々の方が詳しいからな」
「ええ。俺もまだまだですから、お父さんにしっかりと教えてもらうつもりです。いつまでも師匠のお世話になってばかりでは弟子として情けないですから」
「レイヴンさんは真面目なんですね。私も微力ながら手伝わせてください。テオドールさんは私たちの里に被害が及ばないように魔族と交渉してくださったと聞きましたし」
レイヴンはハーゲンティと名乗った魔族が言うことを聞かなければ里の付近一帯を火の海にすると言っていたことを思い出した。
だからこそ、テオドールが無茶を通して魔族と契約したのだろうと頭の中で理解はしていた。
しかし、レイヴン自身が足かせになってしまっている気がして申し訳ない気持ちがそのまま顔に出てしまう。
「また浮かない顔をして。お前の気持ちも分かるが、我々はもっと歯がゆいのだ。直接来られたら私も村の皆を守ることくらいしかできないだろう。攻撃に転じる余裕はないのだから」
「そう、ですね。考える前に行動しなくっちゃ。お父さん、よろしくお願いします」
レイヴンが勢いよく頭を下げると、ふわりと大きな手が頭の上に乗せられる。
クレインに優しく撫でてもらうと、レイヴンの余計な力が少しずつ抜けてくる気がした。
「そうと決まれば、移動しようか。里の皆はハーリオンとレクシェルが根気強く説得した成果もあって、すっかりレイヴンのことを気に入っているからな」
「あら、里長も私の自慢の息子だと言いまわっていたじゃありませんか」
レクシェルがクスクスと笑いこぼしていると、クレインは照れたようにコホンと咳払いをしてからレイヴンの背中にポンと手を当ててくる。
「お腹は空いていないか?」
「まだ大丈夫です。テオに移動 で送ってもらいましたから、元気ですよ」
「そうか。じゃあ早速、始めるとしよう」
レイヴンがクレインの言葉に頷きを返すと、特訓してくれるという場所まで連れて行ってもらうことになった。
レイヴンはレクシェルも手伝わせてくださいと言っていたことを思い出し、もしかしたら特訓に付き合ってくれるということなのだろうと少々緊張してくる。
大切な人たちの力を借りるのだから、レイヴンもテオドールの隣でしっかりと戦えるように頑張ろうと心に決めて気合を入れ直した。
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