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183.風の精霊王
レイヴンが通された部屋は、澄んだ空気の流れる不思議な空間だった。
中心にはとても大きな木があり、高い天井いっぱいに枝葉が広がり生い茂っている。
「お父さん、ここは……?」
「この場所はエルフの里の中でも神聖な場所だ。私はこの場所で精霊王と対話している」
「精霊王……ですか?」
「そうだ。以前は空気が穢れてしまったせいで声が届かなくなってしまっていたんだが、レイヴンたちのおかげで今は元通りだ」
クレインはレイヴンに微笑みかけると、木の幹に手を当てる。
目を瞑って聞きなれない文言が紡ぎ出されていくと、一陣の風が吹いてレイヴンの髪を揺らした。
「何か用事? あぁ……なるほど」
涼しげで美しい声がレイヴンの頭の中に響く。
不思議な感覚に首をひねっていると、クスクスという笑い声と共にふわりと鼻先を風が擽った。
風が吹いたと同時に、フッと人影が現れた。
「シルフィード様、わざわざお姿を見せてくださるとは。ありがとうございます」
クレインが丁寧に礼をするのを驚きながら見ていると、シルフィードはひらひらと手を振りながらレイヴンの顔をじっと見つめてくる。
「その子がクレインの子だろ? ハーフエルフなのに可愛いもんだ」
「ええと……もしかして精霊王様、ですか?」
レイヴンたちの目の前に現れたのは、浅緑色の髪をした美しい少年だった。
肩口で揃えられた髪が輝いているようで、とても綺麗だ。
ふわりとした絹のような白のローブをまとっているが、膝丈のパンツだから活発な感じもする。
悪戯っぽく笑いながら空中に浮いている姿を見ていると、レイヴンは自分たちとは違う特別な存在だと意識したせいか緊張しはじめた。
人外のようなテオでも、その場で浮き続ける魔法なんてさすがに使えないからだ。
「クレインの子なら気軽に接してもらって構わないよ。僕は風の精霊王シルフィード。よろしくね」
「初めまして、俺はレイヴン・アトランテです」
「ふぅーん? レイヴンか。クレインがずっと気にしていたのは知ってたんだけど、クレインと仲良くなったのは君がいなくなった後だったんだ」
クレインが力を付けたのは、レイヴンの母とレイヴンがいなくなった後だったはずだ。
だから、シルフィードと対話できるようになったのも全て事が起こってしまった後だろう。
レイヴンが思いを巡らせて返事をする前に、クレインが先に口を開いた。
「いえ、シルフィード様はお忙しいのに私を慰めてくださいました。本来精霊王は個人に肩入れすることはないのに……」
「気に入った子には力を貸すけど、僕たちは気まぐれだからね。エルフたちとは長く共存関係だから、求められたときには答えるよ」
シルフィードはクレインにニッコリと笑いかけると、優しく頭を撫でる。
少年が大人を撫でているという不思議な光景だが、レイヴンは自然と見とれてしまった。
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