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186.精霊王の気まぐれ

   シルフィードとレイヴンとの会話は楽しく進み、時間を忘れてしまうほど盛り上がっていた。  レイヴンにとって興味深いことばかりで、何よりレイヴンのことを思ってくれる気持ちが凄く嬉しいと感じていた。  シルフィードが言っていた気になることも、いつか明らかになるのかもしれない。  悪いことじゃないのなら、そのうち聞ける機会もあるだろう。 「じゃあ、レイヴン。一旦ティータイムにしよう。君は優秀だから必死にならなくても大丈夫だろうし」 「でも……」  レイヴン自身はまだまだ自信がある訳じゃないし、修行もまだ始めたばかりのような気がしたのだが……隣のレクシェルもレイヴンの戸惑う様子を見ながらクスクスと笑い始めた。 「シルフィード様の言うことに否と言える者はここにはいませんよ。シルフィード様が大丈夫だとおっしゃるのですから、レイヴンさんならば大丈夫だということです」 「それはとても嬉しいのですが、いいのかな……」 「レイヴン、シルフィード様がおっしゃることは絶対だ。へそを曲げられると私たちではどうしようもないのだ」  クレインがこそっと教えてくれることに思わず笑ってしまうと、シルフィードがじっとレイヴンたちを見ていることに気づく。 「クレイン、聞こえてるからね。言っておくけど、君たちより僕の方がずっと年上なんだから。年上の言うことは聞いておくべきなんだよ」 「はい、もちろんです。レクシェル、お茶の準備を」 「かしこまりました。すぐにご用意いたします」  クレインはシルフィードとの会話に慣れているようだ。  レイヴンはまだまだ経験が足りないが、シルフィードが可愛らしさも持ち合わせているせいか凄く接しやすいと感じていた。  初対面とは思えないくらい自然に接することができるのは、精霊王であるにも関わらず気安く接してくれるおかげだろう。 「俺も手伝います」 「ありがとう。では、カップを運んでもらってもいいでしょうか」  レイヴンはレクシェルの側へ行って手伝いを申し出て、レクシェルと一緒に一旦部屋を退出する。  二人で別の部屋の食器棚の前へ行くと、綺麗なモスグリーンのカップを指し示される。   「こちらのカップですね? 分かりました」  部屋にはカップとポットを運ぶためのティートローリーも用意されていたので、その上にカップを乗せていく。  レクシェルが準備している紅茶は……やっぱり蜜茶だ。  テオドールは甘すぎるって文句を言っていたが、心が安らぐし甘いものは緊張をほぐしてくれるものだ。  レクシェルは小皿に何枚かのクッキーも用意してくれたみたいだ。  本格的なティータイムになりそうで、レイヴンも楽しみになってきた。   「お待たせしました。では、戻りましょう。他の準備はシルフィード様とクレイン様がしてくださっているはずです」 「そうですか。では、俺たちも戻らないとですね」  レクシェルと一緒に微笑み合う。  レイヴンは緊張しながら一生懸命頑張ろうと思っていたのに、どんどん心が穏やかになっていく気がしていた。  これもシルフィードの人柄なのかもしれない。

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