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188.武闘派な騎士団長と魔塔主
テオドールはディートリッヒが吹き飛ばしてしまった資料を仕方なく集めていく。
また資料へ目を通しながら仕分けするという余計な仕事を増やされてしまったイライラは、ますます募っていくようだ。
集めた資料を机の上へ置き直すと、念のためなのか空き瓶を重石代わりに載せた。
テオドールの苛立ちは鈍感なディートリッヒにも伝わっているようだ。
それすら気づけないなら、騎士団長なんて名乗るのもおかしいだろうとテオドールも思っていた。
「その……邪魔したみたいだな」
「口に出すんじゃねぇよ。余計にイラつくっての」
「しかし、お前がそこまで余裕なく不機嫌なのは珍しいな」
脳筋なディートリッヒだが、時々勘がいいのも今のテオドールにとって余計に腹が立ってしまう。
ディートリッヒは昔からテオドールにとって痛いところを突いてくるときもあったからだ。
テオドールも自然と舌打ちする。
「もう帰れ。俺はまだやることがあるんだよ」
「そうか。だが、煮詰まってるんだろう? いつものお前ならもっと適当な理由を言って俺を騙すようにして帰そうとするはずだ」
「何が言いたい?」
「テオ、俺は大して役に立てないがお前のイラつきを受け止めるくらいはできる。少し身体を動かしてみてはどうだ?」
ディートリッヒは、テオドールが何を言っても納得しなさそうに見えた。
テオドールも埒が明かないと腹を括り、売られたケンカは勝うことにする。
力任せにぶん殴れば、気分がスッキリするかもしれないと思ったからだ。
この相手がレイヴンだったら、思い切り可愛がればテオドールもイイ意味でスッキリして一石二鳥なのにと心の中でほくそ笑む。
「そこまで言うなら、その気分転換ってヤツに付き合ってやる。結果何も生まれなかったら、酒と煙草を買わせるからな」
「酒と煙草? 俺が買う訳ないだろう。だが、テオと訓練するのは久しぶりだしな。本気でいかせてもらう」
「それはコッチの台詞だ。お前に付き合うってことは俺もぶん殴るしかねぇからな。スカッとさせてもらうか」
「テオの言っていることがそこらのゴロツキと変わらんが、まあいいだろう。これでレイヴンからの頼みも叶えることができる」
ディートリッヒがレイヴンの名前を言うだけでも、テオドールはイライラしてしまう。
何故、ディートリッヒなんかに自分のことを頼んだりしたのだろうか。
テオドールはレイヴンが帰ってきたら、おしおきしようと心に誓った。
「そうと決まれば、訓練場へ移動するか」
「さっさとしねぇと、時間は有限だからな。ディーに使うのは癪だが、行くぞ」
テオドールは指でバルコニーを指し示し、ディートリッヒを連れ出す。
テオドールからはあまり触りたくなかったが、移動 で飛ぶ場合は対象に触れていなければならない。
仕方なくディートリッヒのぶら下げている剣の柄へ手を触れる。
「おい、テオまさか……」
「言っただろ、時間は有限ってな。感謝しろよ?」
「お前、もしかして移動 を……ぐわっ!」
そういえばディートリッヒが移動 苦手だったことを思い出すが、テオドールにとってはどうでもいいことだった。
移動 は酔いやすい人もいるのは事実なのだが、相手がディートリッヒならば関係ないことだ。
変な声が聞こえた気もしたのだが、無視して呪文を紡いだ。
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