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190.真剣勝負
ディートリッヒは表情を変えると、行くぞと低い声で呟いた。
彼が纏う空気は変化し、全く手加減する気がないとテオドールも肌で理解する。
ディートリッヒはテオドールの方へ一気に距離を詰めて、剣を振り下ろしてきた。
ガキンっと金属同士がぶつかる音が響く。
テオドールも一撃目は受け止めたが、重い一撃を受け流すまではできなかった。
拳で受け止める場合はナックルに強化魔法をかけるため重さは多少軽減されるのだが、最初から魔法に頼るのも癪だと思い使わなかったのだ。
魔法なしだとテオドールでも受け止めるだけで精一杯になってしまい、反撃まで転じることはできない。
「チィッ! 相変わらず馬鹿力だな!」
「まだ減らず口を叩く余裕はありそうだな。やはり、お前に手加減など必要なさそうだ」
「この調子でウルガーともやり合ってんだとしたら、アイツに同情するぜ」
にらみ合っていても仕方ないとテオドールは後ろへ飛んで、一旦距離を取る。
テオドールが習っていたのはアレーシュ剣術でこの国に伝わる主流の剣術だが、ディートリッヒは更にアーベライン家に伝わる剣術も混ぜて昇華させている。
そのため、ディートリッヒの剣をさばくのは困難で厄介なのだ。
ディートリッヒの太刀筋はテオドール自身何度も見ているため、動きに何とかついていくことができていた。
そうでなければ、一撃目で吹き飛んでしまい勝負がついていたかもしれない。
「どうした、もう降参か?」
「俺はお前と違うんだよ。綿密な計算をして戦闘を組み立てる技術屋だっての」
「よく言う。テオが近接戦闘を行う時は、楽しそうに殴りつけていたはずだがな」
「いちいちうるせぇな。俺が何故かお前に合わせてやってんだ。剣は力任せだけじゃお前には勝てねぇってことくらい分かってんだよ」
テオドールはムカついているが、ディートリッヒが強いことは重々理解している。
だからこそ、剣でやり合うならば色々作戦を練らなければならない。
だとしても、息抜きと言っていたはずなのに余計に疲れることをテオドールにやらせる意図が今もさっぱり分からなかった。
テオドールも本気で腹が立ってきたが、剣を受け止めながら反撃の手段を考えるために思案を巡らせる。
「魔法を使わないのか?」
「最初から使ったら楽しくねぇだろ? 優しいテオドール様はお前に付き合ってやってんだ」
「フッ……俺にそんなことを言えるのはテオくらいだな。俺の部下たちもすぐに音を上げるから張り合いがない」
「そりゃ……お前が突進してきたら面倒だから……って、来るんじゃねぇ! 聞けよ!」
テオドールは会話をしながら時間を引き延ばし、戦略を練ってたのだが、ディートリッヒは効く耳を持たない。
話している間も、テオドールの身体は剣の勢いに押されていく。
剣でギリギリと押し込まれると、このまま身体ごと叩き斬られそうだ。
「っつーか今更だが、この剣で斬られたらケガするよなァ?」
「だろうな。まあ、危険だと思ったら手を止めるから安心しろ」
「ホントかよ……嘘くせぇな」
テオドールは隙を狙って右足で思い切りディートリッヒの腹を蹴り飛ばす。
不意打ちが成功し、ディートリッヒの身体が離れた。
また距離を取ってから、今度はテオドールの方から距離を詰めていく。
「足癖の悪い男なのを忘れていた。なかなかやるじゃないか」
「上から目線なのは気に食わねぇが、誉め言葉として受け取っておいてやるよ」
テオドールは上から振り下ろすと見せかけて、剣の軌道を変化させる。
が、読まれていたせいで下から斬り上げたテオドールの剣は、ディートリッヒの剣に止められてしまった。
この程度の小細工では、ディートリッヒには通じないようだ。
勢いのまま何度か剣と剣で撃ち合うが、どの攻撃も軽く受け流されていく。
これだからディートリッヒは面倒なんだと、テオドールは心の中で毒づいた。
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