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191.勝負の結果は

   テオドールが試行錯誤している間も、ディートリッヒは力でグイグイ押し込んでいく。  ギリギリと刃同士が合わさる嫌な金属音がディートリッヒの馬鹿力を証明していると言わざるを得ない。  このままだとテオドールは防戦一方で体力だけ削られてしまうだろう。  二人で何度か撃ち合った後、テオドールはまた一歩後ろへ飛び去って距離を取る。 「随分と大人しいじゃないか。攻撃はもう終わりか?」 「おいディー、俺の前で本性出しすぎだろ。獰猛な獣そのものだな」 「それはこちらの台詞だ。テオ、お前はいつも話しながら時間を稼いで戦略を練ってるはずだ。そんなことさせると思うか?」 「脳筋の癖して、戦いの時だけ勘がいいんだな。クソ面倒臭ぇ」  テオドールは舌打ちしながら重い剣を打ち返す。  このまま剣だけに拘っても勝ち目は薄いだろう。  テオドールはどんな手を使ってでも、勝ってやろうと心を決めた。 「さて、どうするつもりだ?」 「そうやって余裕こいてると、痛い目見るぞ。騎士団長さんよ」  テオドールはニヤリと笑んで見せてから、持っていた剣を上へ放り投げる。  ディートリッヒは突然の出来事に驚いたらしく、つられて上へ視線を向けた。  だとしても、テオドールに残された自由な時間はわずかだ。  この機を逃さず、今度は体重をかけて一気にディートリッヒとの距離を詰める。 「なっ……」 「まだまだ甘いんだよ!」  テオドールが思い切り体当たりをぶちかますと、さすがのディートリッヒも体勢を崩す。  テオドールは計算通り手元に落ちてきた剣を握り直すと、ディートリッヒの首に剣を突きつけた。  だが―― 「チッ。同時かよ」 「一瞬視界を奪われたが嫌な予感がしたんでな。残念だったなテオ」  テオドールが左の首筋に刃を向けたと同時に、ディートリッヒの剣がテオドールの首を狙っていた。  ディートリッヒは瞬時に右手から左手に剣を持ち換えたらしい。  更に、ディートリッヒの利き手は右手だ。  やっていることがテオドールより大胆だというのに、力づくで成功させてしまったようだ。   「やめだやめ。これだけ付き合ってやれば満足しただろ?」 「どちらかと言うとお前のためにしたことなんだがな」 「だから、それが余計なお世話なんだよ。いい加減理解しろ」  テオドールは頭と体力も使わされて疲労困憊だ。  大してディートリッヒはテオドールが何を言ってもハハハと言いながら笑っているだけだ。  テオドールは見ているだけで腹立たしくなってくる。 「しかし、お前と手合わせするのは俺にとっても良い刺激になる。礼を言うぞ」 「はぁ? ったく、付き合わされる方はただの迷惑なんだよ。何度も同じことを言わせるな」  ディートリッヒからこれでいい気分転換になっただろ? などと言われたら、テオドールは今度こそディートリッヒをぶんなぐってしまうかもしれない。  だが、ディートリッヒは剣を下げてから悪かった、といきなり謝ってきた。 「すまんな。俺はレイヴンのようにお前を支えてはやれないが、お前の苛々をぶつける相手くらいならばなれると思ってな」 「心配しなくてもディーに頭を使うことなんて全く期待してねぇよ。余計なことを言ったら今度こそ殴るつもりだったが、しゃあねぇな。お前で憂さ晴らししたってことで許してやるよ」 「俺のことをいつも獣扱いするが、テオの方が確実に獣そのものだぞ」 「いちいち蒸し返すんじゃねぇよ。じゃあ、俺は帰るぞ。汗もかいちまったし、風呂に入らねぇとな」  テオドールが剣を放り投げてやると、ディートリッヒはため息交じりで剣を受け取る。  すると、今度はやたらと真面目腐った顔してテオドールを見遣った。   「テオ、あまり根を詰めすぎるなよ」 「だから、お前は俺の母親かって言ってんだよ。お前に心配されるほど落ちぶれてねぇっての」 「そうだったな。では、レイヴンが戻ったときもそのように伝えておこう」 「レイヴンに余計なことを吹き込んだりしたら、今度こそ物理で黙らせる。分かったな」  テオドールがこれだけ釘を刺しておけば、いくらディーでも理解できたはずだろう。  なのに、ディートリッヒは適当に分かった分かったと言うばかりだ。  やはりディートリッヒの顔をぶん殴っておけばよかったと、テオドールは少し後悔する。  だがこれ以上ディーリッヒと一緒にいると碌なことにならないだろうと察し、さっさと退散することにした。

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