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194.大人しく従う師匠と厳しい弟子

  クレインとの挨拶も済んだと思いテオドールは、遠慮なく移動(テレポート)を発動する。  レイヴンを抱えても、この距離なら魔塔まで一気に飛べる。  天辺のバルコニーまで飛んで着地すると、レイヴンが不服そうに俺を睨んでからテオドールを振り払ってズカズカと室内へ入っていく。   「テオ、部屋が散らかってるところと散らかっていないところがありますけど……」 「ディーの野郎が俺の研究資料を風で吹き飛ばしやがったからな。ついでに掃除してたっけな」 「な……ディートリッヒ様にやらせたんですか! 信じられない!」 「おいおい、いきなり怒鳴るなって。アイツが後先考えないから自業自得なんだよ」  レイヴンはやたらとぷりぷりしながら、今までテオドールと離れていたのが嘘みたいに掃除をし始めた。  テオドールは全くそんな気分じゃなかったのだが、ここでレイヴンを止めようものなら確実に更なる怒りを買って自分の望む結果にならなそうな予感がした。 「おーいレイヴン。久しぶりに会ったってのに、補佐官様はまずお片付けからかー?」 「誰のせいですか! 誰の! 俺がいないだけでよくここまで部屋を散らかすことができますね? ホンっと、俺がいないと何もできないじゃないですか」 「お前なぁ……ディーもそうだが、揃いも揃って俺の母親かっての」  テオドールは早起きの弊害で欠伸が出たところをレイヴンに目撃されて、また怒られる。  レイヴンは自分と離れていた間に説教する相手がいなくて、我慢していたのかもしれない。  テオドールは言われ慣れているからいいものの、エルフの里ではいい子で過ごしている図が浮かぶ。  言いたい放題言える発散相手がいないというのも疲れる原因になりえるだろうと察し、笑みを浮かべるのみに留めた。 「しょうがねぇな。部屋が綺麗になったら、俺の望みも聞いてもらうからな」 「はあ? また意味の分からないことを言って。とにかく、テオはこっちの酒瓶をちゃんとまとめてください!」 「補佐官様の仰る通りに致します。これでいいか?」 「だったら、余計なことを言わずに手を動かす!」  レイヴンの鬱憤の捌け口にされてるのは気のせいだろうか? と、テオドールは思案する。  だが、何があっても自分の思惑には後で付き合ってもらうつもりだったのだ。  今は優しく受け止めてやろうと思い、大人しくすることにした。  暫くレイヴンの片付けを手伝ったあと、軽く食事をしてから別行動の時のことを話そうと言ってレイヴンを風呂へ押し込んだ。  この部屋で話すことはレイヴンも納得したし、泊まりもあえて伝えてはいないが流れでそうなるに違いない。  掃除をしたせいでテオドールとレイヴンも少し埃っぽい可能性がある。  綺麗好きなレイヴンの性格を利用してしまえばいいことだ。  大人しく別々に入る訳だし、レイヴンが変に勘ぐってこないだろうとテオドールもある意味安心していた。 「話をしながら……どうしたもんか」  テオドールは仕方なくレイヴンから隠れるようにバルコニーで一服しながら、独り言ちる。  この後の時間を想像すると、自然とテオドールの口元が緩む。  さて、どう可愛がってやろうか?  思案は紫煙となって、空へ吸い込まれていった。

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