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206.招待状

   謁見室へ通されると、陛下は難しい顔をしながら隣に立つ宰相のアスシオと何やら話し合い中だった。  テオドールたちが呼び出された訳も聞かせてもらえるのは間違いないし、テオドールも話の大体の想像はついていた。 「王国の太陽、国王陛下にご挨拶申し上げます」  決まり文句でディートリッヒが挨拶すると、陛下も入ってきたテオドールたちに気付いて一つ頷いて見せた。  並んでいるテオドールたちも頭を下げてから、陛下の合図で顔を上げる。 「テオドールならば分かるであろうが、魔族の使いであると申す使い魔が訪ねてきた。その者が言うには準備が整ったらしい。招待状を受け取るとその使い魔を煙のように消えてしまったのだ」  陛下がテオドールを呼ぶのが分かり、テオドールはアスシオの手前なるべく(うやうや)しく招待状とやらを受け取る。 「中身を確認してもよろしいでしょうか?」 「頼む。元々テオドール宛てらしいのでな」  赤い封筒にはご丁寧に封蝋までされていた。  テオドールが触ると手の甲に施されていた赤の誓いと共鳴し、自然と封筒が開く。  中には一枚の手紙が入っていて、直筆らしい美しい文字が綴られていた。  『テオドール・バダンテール様 貴殿を迎える準備が整ったのでこの場所まで来られたし。何人で来られても構わないが、我らは選りすぐりの精鋭でお迎えするため命の保証は致しかねる。 ハーゲンティ』 「だとよ。この書き方だと一人じゃなさそうだということしか分からねぇな」 「テオドール! また、そのような口の利き方を……」 「よい。この件は元々テオドールに一任するつもりだ。私としても、正直損害を出したくないのが本音だ。全ての戦力を魔族にぶつけたとて、勝てる保証など微塵もないことは分かり切っている」  陛下に(いさ)められると、アスシオも黙るしかない。  テオドールのことを思いっきり睨んでいるが、テオドールは無視を貫く。 「この手紙に招待場所も書いてあるが、どうやらエルフの森の近くだな。あの辺りにあるもんと言ったら……」 「例の魔の森か? 魔族どもが住処にしていると言っていたな」  テオドールが頷くと、陛下も眉を寄せて渋い顔をする。  ご丁寧な言葉遣いだが、要はお家へ遊びに来てくださいというお誘いのつもりなのだろう。  テオドールは心の中で、可愛いお姉ちゃんの一人や二人でも用意されていないとやっていられないと悪態をつく。 「俺は行くとして、レイヴンとディートリッヒも連れて行く。で、ついでにお前も来いウルガー」 「うわ、俺もですか? ついでって……でも、テオドール様が全てを一任されているのならば、行くしか選択肢がありませんね」  行きたくないとウルガーの顔に書いてあるが、ウルガーはテオドールの動きに合わせられる実力はあるとテオドールも認めていた。  複数人を求めるのならば、どうしてもこの四人は必要になる。  魔族もそこまで群れることはしないだろうが、テオドールの目的は魔族だけではない。  ようやく、レイヴンの命を危険に晒したクソ野郎に制裁できるはずなのだ。  奴らもテオドールを倒して、自分たちの研究とやらを魔族の力を借りて続けたいはずだ。 「あい分かった。この国が誇る精鋭を送り出すとしよう。テオドール、良い報せを待っているぞ」 「無事に使命を果たして国へ戻った暁には、暫く(いとま)を頂きたいと存じます」  テオドールがわざと丁寧な口調で願い出ると、陛下も少し笑んでから頷く。  これでレイヴンとゆっくりできる大義名分ができたと、テオドールは誰にも気づかれないようにニヤリと笑む。  アスシオは相変わらず苦い顔をしていたが、魔族を倒すという意味は理解しているらしい。  頼みましたよと仰々(ぎょうぎょう)しくテオドールへ言ってくる程度で済んだ。

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