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207.追いかけてきたのは
テオドールたちが謁見室を後にすると、ウルガーが分かりやすく気を抜いてわざとらしくはぁーっと息を吐いていた。
「前に言ってたヤツ、やっぱり本気だったんですね。しかもお相手さんまでやる気満々じゃないですか。俺なんて一捻りでやられそうなんですけど、どうしろと?」
「ウルガー、お前何気なく忘れたフリして逃げようとしてただろ。思い出せて良かったなァ?」
「相変わらず性格悪……いえ、何でもありませんよ。何でも。で、改めて。ついでに俺も行く訳ですが。団長も筋肉量が増えた以外、何か対策は?」
ウルガーがディートリッヒに話を振ると、ディートリッヒは自信満々な顔をしながらテオドールとレイヴンに視線を流した。
こういう時のディートリッヒは、どうせ何も考えてないのだとテオドールは辟易する。
聞くだけ無駄なのだが、レイヴンはしっかり聞く体制をとっていた。
「心身ともに問題ない。相手が魔族だろうと、自分の持てる力をぶつけて戦うのみだ」
「さすがディートリッヒ様です。鍛錬もかかさず行っていらっしゃるし、やはり騎士団長は騎士の鑑です」
大体レイヴンが褒めるせいで、ディートリッヒは勘違いする。
まただと危惧してるのは、テオドールとウルガーだけだ。
馬鹿力だけでも戦力なのは確かで、ディートリッヒならば魔族も武力でぶっとばせるだろうとテオドールも分かっているので敢えて指摘まではしない。
「ウルガー、無駄なこと聞いてないで脳筋と一緒に準備してこい。俺たちも準備しに行かねぇとな」
「はい。師匠、出発はすぐにですよね」
「ああ。招待状で呼び出すお遊びをしたかっただけでどうせそこら辺に迎えがいるんじゃねぇの? 別に馬でも構わねぇがヤツらも時間はかけたくないだろうしな」
ウルガーも嫌がっているのは口だけで、裏では自分たちが巻き込まれていることを想定して準備してきてることは予測できた。
テオドールがディートリッヒとレイヴンを引き離してから魔塔へ戻ろうとした帰り道、またテオドールにとって聞きたくもない声が背中側から聞こえてきた。
「待って二人とも!」
「レイヴン振り返らなくていいぞ。嫌な予感がする」
「そういう訳には……この声は、聖女様?」
テオドールが仕方なく振り返ると、予想通りの人物がいた。
普段は神殿に引きこもっているため会わないが、聖女クローディアンヌが息を切らせてテオドールたちを追いかけてきたらしい。
清楚な白のドレスの乱れを直しながら、二人へ微笑みかけてきた。
聖女は金糸のような美しいブロンドの長い髪と、紫の優しい瞳が正に聖女に相応しく美しいとか言われている。
見目だけなら認めざるを得ないが、中身は男で本来の名前はクロード。年齢はテオドールより上だ。
女神から授かるという聖女の力のせいで肉体年齢が止まっているため、見た目は二十代にしか見えないせいか勘違いする者も多い。
聖女はテオドールに対して暴言も平気で吐くし、持ってる杖で普通に頭を殴る時もある。
「さっき陛下に許可をいただいてきたの。私も貴方たちに同行する」
「はあ? お前まで来たら誰がこの国を守るってんだよ」
「いざというときは同士が協力してくれるから大丈夫だと仰っていたわ」
「同士って……もしかして?」
協力関係で陛下も知っているテオドールたちに協力しそうな勢力と言えば……エルフたちだろう。
だが、自分たちの森はいいのか? という疑問が浮かぶ。
確かに彼らにはエルフの森には森を守る結界があるので、ある程度の攻撃なら耐えられるかもしれない。
だからこそ、協力も可能だということなのだろう。
「あなたたちの活躍のおかげで、エルフたちもちょっかいをかけられることなかったから若い子たちも修行できたそうよ」
「そう、ですか……」
この様子だとレイヴンは何も聞かされてなかったようだ。
テオドールたちが知らない間にエルフの長クレインと陛下の間で約束事が交わされたのだろう。
クレイン的には息子を心配して、せめてもの援助をしたかったに違いない。
聖女にはレイヴンの生い立ちのことは話していないが、一緒に来るのならレイヴンが力を存分に発揮するためにも話しておいた方がいいかもしれない。
最終決定はレイヴン次第だと思いテオドールが見遣ると、レイヴンはテオドールに目線で合図を送ってきた。
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