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209.迎え
テオドールはイライラしながら魔塔に戻り、一旦レイヴンと別れて準備を始める。
大体の準備はしておいたが、真面目なレイヴンは詳細な指示を最後に確認しておきたいらしい。
テオドールは自室に戻ってから回復系のビンを取り付けたベルトを付け直し、魔道具各種を装備する。
身に着ける装飾品も合わせると、かなりの重量になってしまう。
回復系は聖女がいれば量は多くなくてもいいが、今回は慎重にならざるを得ない。
「あー……面倒臭ぇ。魔族野郎ごと一気にぶっ潰すしかねぇな」
速攻で終わらせて、レイヴンとだらだらするとテオドールは心の中で強く思う。
身支度の最後に愛用の煙草を懐に忍ばせて、エルフの里で手に入れたローブを羽織る。
このローブは炎や氷への耐性魔法がかかったローブだ。
深い緑はエルフたちの色を彷彿とさせるが、能力値は悪くない。
「レイヴンと一緒に買った腕輪に、クレインからもらったサラマンダーの指輪もあるし。後は大体魔力 増幅系だから問題ねぇな」
身支度を整え、テオドールは一度自身の部屋を振り返る。
やり残したことはないし、どうせすぐ帰ってくるから適当でいいだろうと己を納得させた。
テオドールは最後にベッドを一瞥してから部屋を出て、扉を閉めた。
+++
レイヴンと合流し、待ち合わせ場所の城門前へ向かう。
城門前にはディートリッヒとウルガーがいた。魔塔の二人が合流したところで、小走りの聖女が追い付いてやってくる。
「ごめんなさいね。神官たちの話が長くて。巻いてくるのに時間がかかってしまったわ」
「聖女様までいらっしゃるとは。昔を思い出します」
「ディーちゃんもいつも元気そうね。ウルガーちゃんも今日も可愛らしいわ」
「え、俺ですか? ありがとうございます。聖女様も今日もお美しいですね」
ウルガーの誉め言葉にあらありがとうとやり取りする聖女を見ながら、テオドールは分かりやすく舌打ちする。
ウルガーも聖女の中身が男ということを知ってる癖に、相変わらず口が上手いヤツだと二度目の舌打ちが自然と飛び出した。
軽く息を吐いてからテオドールとレイヴンは頷き合って、招待状を手に歩き始めた。
だが、少し歩いたところで予想通り迎えが来る気配を察知する。
目の前の景色が急に一部分だけ仄暗くなり、不自然にじわじわと歪んでいく。
「この気配は……みんな下がって! 来るわよ!」
「邪悪への察知力は俺らより早いってか。さすがは聖女様だな。心配しなくても、どうせただの使いだろ。俺らはご招待されてる訳だしな」
テオドールが鼻で笑い飛ばしてやると、歪んだ空間からスゥっと一匹の黒猫が姿を現した。
黒猫は首輪に着いた鈴をチリンチリンと鳴らしながら、ゆったりとした足取りでテオドールたちの方へ歩み寄ってくる。
『どうやら準備ができたみたいだな。待った甲斐があったというものだ』
「うわ! 黒猫が喋った!」
「ウルガー! しーっ!」
ウルガーとレイヴンのやり取りは可愛いものだが、黒猫の中身は全く可愛くない代物だ。
猫の姿を借りようと、聖女みたいに警戒しておくのが正解だろう。
テオドールも念のため警戒しながら、目線で話の先を促す。
「御託はいいから、さっさと待ち構えてるところへ連れてけ。俺らも暇じゃねぇんだよ。さっさと終わらせてやる」
「そうだな。その意見には同意する。我々は事態を収拾させる義務がある。迅速に事を進めて行かなくてはならない」
「同感だわ。穢らわしい魔族たちの言葉に耳を傾ける必要はないし、女神ミネルファリア様の命で悪しき者は滅するべしとお告げがあったのよ」
俺らが敵意をむき出しにしてやると、黒猫の姿に似つかわしくない嘲笑が聞こえてきた。
魔族ってヤツは鼻につく。自分たち以外の種族を見下し、愉しむために色々と小細工してくる種族だ。
『ほう、女神の力を授かった者まで参加してくれるとは。これは面白くなってきたな。期待させてもらおう。では、我らの麗しき舞台へ案内しよう。ついてこい』
黒猫はひとしきり笑った後で俺らに背を向けてゆっくりと歩きだす。
その先には先ほど開いた歪んだ空間がぽっかり空いている。
テオドールとレイヴンも視線を軽く交わして頷き合い、黒猫の後に続いて歪んだ空間へ足を踏み出した。
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