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211.遊戯開始
レイヴンはテオドールの気持ちを察しているのだろう。
今はその時じゃないと表情が訴えていた。
ここは弟子に免じて落ち着くしかないと、テオドールも渋々だが大人しくする。
「そんな目で見なくても、この場で魔法をぶっ放したりしねぇよ」
「一応は信用してますよ。でも、師匠がブチ切れると何をするか分かりませんから……」
テオドールが隣でうんうんと頷いているウルガーの頭上に軽く拳を落として憂さ晴らしをしている間に、言いたいことだけいった黒猫は消えてしまっていた。
全員で顔を見合わせ大扉を潜ると、そこは真っ赤な絨毯 が敷かれたエントランスホールだった。
城内なんてそんなものだろうと、テオドールは適当に辺りを見遣る。
正面の奥にはステンドグラスが飾ってあり、両脇には螺旋階段もある。
テオドールはもっと気色悪い感じかと思ったが、意外と小綺麗で埃一つもない立派なものだと内心ほんの少し感心する。
ディートリッヒは早速辺りを警戒しているようだが、ここに一人目がいるのは間違いないだろう。
テオドールたちのことを待ち構えていると言っていたのは本当だったようで、すぐに耳障りな甲高い笑い声が聞こえてきた。
「待ちくたびれちゃったよー! 僕、遊んでほしくて待ってたのにさ」
「一体どこからだ!」
「団長、たぶんあそこ。今更威嚇 しても遅いですって。ここは愉しみとやらにのってやらないと」
相変わらずやる気満々のディートリッヒと比べて、ウルガーは状況を冷静に受け止めてるようだ。
エントランスの奥の方で不自然に浮かぶ何かを指さして、ディートリッヒに指し示している。
ディートリッヒのように騒いだところで、どうせ状況は変わらない。
腹は立つが、コッチは魔族たちに付き合ってやるしか選択肢がないのだとテオドールも理解はしていた。
テオドールたちの方へ声の主が近づいてくる。
赤と青の双頭のドラゴンに乗り、天使みたいな羽を生やした銀髪の子どもだ。
服装も白を基調としたふわりとした布みたいなもので、見た目だけなら天使に見えなくもない。
新緑のような緑の瞳はくりくりして可愛いものだが、可愛い見た目と裏腹に自然と寒気がする。
彫刻のような完璧な可愛らしさは、異常さも持ち合わせているということなのだろう。
「お前が一番手なのか?」
「おじさん、そんな怖い顔しないでよ。こんなに可愛い僕を見て何とも思わないの?」
子どもが愛らしく首をこてんと傾けるが、ディートリッヒは眉を吊り上げるだけだ。
話す相手がディートリッヒじゃなければここまで反応することもないのだろうが、子どもはわざと煽ってきているのだろう。
「団長、この調子で行くとすぐに力みすぎて疲れちゃいますよ。警戒はほどほどに。さっさと済ませましょう」
「そうね。ディーちゃん、気持ちは分かるけれどウルガーちゃんの言う通り。私だって、この姿を見ているだけで腹立たしいけれど今は早く終わらせることだけ考えましょう」
珍しく聖女がまともなことを言っていると、テオドールはニヤリと笑む。
テオドールはレイヴンが無言の圧をかけてきているのが分かっているので、大人しく待つことしかできない。
どうせ相手から指名をしてくるはずだと、腕組みをしながら静観する。
「聞き分けの良い子は好きだよ。じゃあ、誰に遊んでもらおうかなー? 僕は戦いとか血なまぐさいことはあんまり好きじゃないんだよね」
子どもはクスクスと笑いながら、テオドールたちを品定めするようにふわふわと飛び回る。
正直テオドールにとってはうざったい存在であり今すぐにでもはたき落としてやりたいと思っているのだが、ここは抑えて様子を見守るしかなさそうだと内心辟易していた。
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