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213.遊戯の行方は
聖女は動きまわるウァラクを追って、階段を上り下りするのみだ。
その動きすら徐々につまらなくなってきたのか、ウァラクが頬を膨らませた。
「つまんないなぁー。お姉さん、走るの遅いよ。それじゃあ、僕のことは捕まえられないって」
「この状態で捕まえられないのは、最初から分かりきっていることだわ。飛んでいる貴方と飛べない私。不利なのはどちらかしら?」
全うなご意見だが、それもごもっともだ。
これじゃ現状何も変化がないし、ただ聖女が疲労するだけだ。
逃げる方も余裕で変わらないし、つまらないだろう。
逃げ続けるだけなのも飽きたのか、ウァラクは聖女の周辺をビュンビュン飛び回りながらドラゴンの頭を小突いて合図を送る。
すると、ドラゴンがそれに合わせて火を噴き始めた。
通りがかった聖女が、慌てて頭を引っ込める。
「なっ……ちょっと! 危ないわね!」
「この方が楽しい! お姉さんの綺麗な服と髪が焦げないようにうまく避けてね。そーれ!」
勝手に盛り上がってきたらしいウァラクが、双頭のドラゴンを小突いては順番に火を噴かせる。
炎の距離は大したことないが、スレスレを狙ってくる。そのせいでもう鬼ごっこどころではない。
聖女は当たらないように身体をくねらせて避けるが、悔しそうに唇を嚙み締めているのが分かる。
子どもごときに翻弄 されるようでは連れてきてやった意味がないと、テオドールも内心のイライラが増してくる。
「防戦一方じゃ埒 が明かねぇだろ。本気を見せろ」
「分かってるわよ! 私だって……」
聖女は追いかけることを完全に諦めて立ち止まり、何度も迫る炎を避けながら何か詠唱をし始めた。
ドラゴンの炎は聖女の服や髪を一部焦がしているみたいだが、詠唱することだけは決してやめない。
「――輝け、捕らえよ! 」
構えた杖の先から光が溢れ出し、聖女を中心にして網目状に広がっていく。
ウァラクは放出された瞬間に危険を察知して距離を取ったが、聖女の魔法はどうやら捕縛に特化してる魔法のようだ。
しかも光属性で女神様の力が乗っかってる分、魔族との相性は抜群だ。
テオドールたち魔法使いが使用する捕縛魔法よりも範囲が広いようで、相手が飛び回ろうがこのエントランスホール中に張り巡らせばこっちのものだろう。
鬼ごっこだというなら、捕まえればいい。
最初から本気を出しとけと、テオドールは鼻を鳴らした。
ウァラクはズルいだのなんだの騒いでるが、光の網に捕らえられて動けなくなった。
「これでこちらの勝ちよね? さあ、大人しくしなさい」
「うるさい! お前卑怯だぞ! こんなの鬼ごっこじゃない。邪魔な網なんてコイツの炎で……」
ウァラクがドラゴンに無理やり炎を吐かせようとしたみたいだが、その前に聖女がドラゴンへ杖をブンと振り下ろす。
ギャンっ! という声と共にドラゴンは気絶したのか真っ逆さまに床へ落下し、同時に乗っかってたウァラクも床へ叩きつけられた。
「いったーい! ちょっと、僕のことなめす……」
「……黙れ。魔の者に容赦するわけないだろうが」
聖女は低い声を出し、ウァラクの口元に杖の先を向けて光の球を生み出す。
網を具現化させたまま、更に追撃しようとしている。
しかも普段は出さない男性的な部分が出ているのが見てわかる。
テオドールも聖女であるクロードが、軽くキレているかもしれないと察した。
しかし、これで鎮圧できたということは、魔族の中でもウァラクは下っ端の可能性もでてきた。
それともそれすら演技ということなのか……テオドールでもよく分からない。
聖女が光の球でじりじりとウァラクの髪を焦がすと、ウァラクが不満そうに光る何かを床へ転がした。
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