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217.駆け引き勝負

   ウルガーは必死に頭の中で思案する。  フルさんが求めていることに答えて満足させればいいはずだが、それがまだ分からない。  確実に言えることは、この甘い言葉に乗ってしまうことではないということくらいか。  別に命を取られたりはしないはずだが、相手は何をしてくるか分からない。    血生臭いことは嫌いだと言っていたが、ウルガーの命を奪うことくらい簡単なことだろう。  フルさんがウルガーへ向ける表情は笑んだままでも、ウルガーの背中には一筋の汗が流れていく。   「どうしたの? もっと甘えてくれていいのよ?」 「そうだな……では甘えまして。お互いのことを知るために質問し合いましょうか。それで、俺のことを本当に気に入ってくれたら……フルさんの気持ちをください」 「あら、大胆ね。いいわ。じゃあ、私から質問。ウルちゃんは好きな子はいるかしら」 「ええ、います。では俺も質問しますね」  ウルガーがさっさと先に進めようとすると、フルさんは少し驚いた表情へ変わる。  それから、楽しそうに笑って見せた。 「返事があっさりしていると思ったけれど、返答としてはいるかいないかだものね」 「はい。なので、俺の番です。フルさんはこの質問のやり取りをあと二つしたら、満足してくれますか?」 「あら、せっかちさんね。私はもっと楽しみたいのに。満足するかどうかはあなた次第ね。じゃあ、私の番かしら。ウルちゃんの好きな子ってどんな子?」  ウルガーは正直この状況を長引かせたくないが、そう簡単にはのってきてくれないらしい。  しかし、いつまでも問答を続ける気はさらさらない。  ウルガーは一刻も早くこの時間を終わらせるために、賭けに出た。   「せっかちだってよく言われます。俺が好きな子は俺に対して好意的な子ですね。では二つ目。フルさんが好きなのはフルさん自身ですよね? 俺のことなんてどうでもいい。違いますか?」  ウルガーが言い切ると、フルさんは瞬きしてからクスクスと楽しそうに笑い始めた。  そして、ウルガーを舐めまわすように見てからゾッとするような冷たい笑みを浮かべる。 「ふぅん。お遊びに付き合う気はないということ? 貴方、怖がりの癖に大胆なのね。私が機嫌を損ねるとは思わないの? それともさっさとこの先へ進みたいのかしら」 「ええ。申し訳ないですが、一刻も早く宝石をいただきたいので。でも、こういう刺激的な展開もお嫌いじゃないでしょう?」 「嫌いではないし、私は私のことが一番好き。それはあっているわ。じゃあ、私の番ね。私には勝てないと分かっているのに仕掛けてきたのはなぜ?」  先ほどとは違い、独特の空気でウルガーを威嚇(いかく)してきているのが分かる。  相変わらずウルガーの背中には汗が流れているが、のらりくらりと適当な態度を取ればただ時間を引き延ばされるだけだ。  こういう(やから)は短期決戦で何とかするしかない。 「それは……俺が無理でも仲間が何とかしてくれるからです。ですが、ここは俺が何とかすると言ってしまいましたし……では最後に。これでフルさんを楽しませたことになりますよね?」  ウルガーが無理やり押し通すと、フルさんはスウっと目を細めてからニイと妖艶に微笑んだ。  口元に指をあてて、どうしようかしら……と意味深に呟いてくる。 「うふふ……ハーゲンティが付き合えっていうから来たけれど、人間にそこまで興味がなくって。でも、貴方との会話は楽しかったわ」  フルさんは威嚇を解いて微笑みながら胸元へ手を差し入れると、赤い宝石を取り出してウルガーへ宝石を手渡してきた。 「ありがとうございます。これであっていたのか全く自信はありませんでしたが、満足していただけたのですか?」 「そうね。私の誘いに乗らない子は初めてだったけれど、貴方とお話するのは悪くなかった。ね、ウルガーちゃん」 「ですよね……その鏡で見てたっていうなら、俺たちの話も聞こえてますよね。つい偽名を名乗ってしまったことは謝ります」  ウルガーが咄嗟(とっさ)に偽名を名乗ったのも特に意味はなかったが、それすらフルさんを楽しませる方向へ働いたようで内心ホッとする。  ウルガーは動揺を悟られないように、最後まで油断せずゆっくりと席を立つ。  フルさんはクスクスという笑い声だけを残しスーッと溶けるように姿を消してしまった。

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