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219.謎の問いかけ

   ディートリッヒと赤い甲冑はお互いに剣の切っ先を触れ合わせ、ご丁寧にディートリッヒから名乗りを上げる。 「俺はアレーシュ王国騎士団の騎士団長、ディートリッヒ・アーベラインだ。そなたの名を聞かせてもらおうか」 「……ゼパル」  テオドールたちは距離をとってから会話を聞きやすくするために音はテオドールの魔法で拾っていた。  テオドールはディートリッヒの名乗りに対してわざわざ名乗り返す魔族がいることに疑問を感じる。  魔族にも騎士道精神なんてものがあるのだろうか? なんでもアリなのも魔族ならではなのかもしれない。 「集音魔法まで駆使して見守ってあげるだなんて、テオドールにも優しいところがあるのね」 「そんなんじゃねぇよ。ゴリ押ししかしねぇ騎士団長さんに指示出しするには、コッチも情報が必要だろうが。勝負っていうのがただの戦いのことを意味するのかまだ分かんねぇだろ」 「団長に駆け引きなんて器用なことはできませんからね。今回ばかりはテオドール様が正しいです」  聖女の言うことはテオドールにとってどうでもいいのだが、ウルガーの言うことは正しい。  ディートリッヒに戦略なんてものはない。こちらが言えば一応作戦には従うが、何も言わなければ力押しで無理やり押し通すのがディートリッヒのやり方だ。  テオドールたちが話している間にもゼパルとディートリッヒは互いに出方を見ていたようだが、先に動いたのはゼパルだ。  ディートリッヒへ詰め寄って剣をブンと振り下ろす。  ディートリッヒも受け止めているが、なかなか一撃は重そうだ。  珍しくディートリッヒが足を踏ん張っているのが分かる。 「さすがは魔族といったところか。重さと早さが乗った攻撃だ。今度はこちらから行くぞ!」  ディートリッヒは剣をはじき、左斜め上から振り下ろす。  ゼパルもすぐに構え直して、ディートリッヒの剣を受け止める。  ディートリッヒも試しに一撃振り下ろしたようだが、相手も反応が早い。  グッと体重を乗せてもギリギリという音が聞こえるだけで、ゼパルも冷静に力加減を見ているみたいだ。 「ほう? やはり魔族。この程度の一撃ではビクともしないか」 「……オマエハ、ナンノタメニケンヲフルウ?」  ゼパルが急に問いかけたせいで、ディートリッヒの集中力が一瞬乱れる。  その隙をつかれて、ディートリッヒは剣を弾かれて少し後ずさりする。 「何の為だと? 決まっている。己が背負うものの為だ。今回は王命と友人の命がかかっているのでな」  魔族相手に馬鹿正直に答えてどうするんだと、テオドールは心の中で毒づく。  いっそのことテオドールは文句を言ってやろうとしたのに、ゼパルの声に遮られる。 「ユウジントハナンダ? ソレハアイスルモノ……?」  ゼパルの言葉が不愉快すぎて、テオドールは違う意味でゾッとする。  ディートリッヒの言った友人って一応テオドールのことなのだろう。  だとしても、ディートリッヒが愛する者だとか冗談じゃないと、テオドールは一気に不機嫌になる。  気分は最悪で。何かムカムカとこみあげてきた。 「ディートリッヒ、さっさと否定しろ! ゼパルのせいで吐き気が止まらねぇ。何が愛する者だ!」 「な……おい、テオドール! この戦いはお前のためでもあるというのに、その言い草はなんだ!」 「おい、コッチを振り向くな! 否定しながら攻撃を交わせ、この馬鹿野郎が!」  テオドールがイラついて叫んだせいで、ディートリッヒの集中力が途切れる。  ゼパルがすかさず距離を詰めて、横なぎに剣を振ってくるのが見えた。 「団長!」 「分かってる!」  ディートリッヒはウルガーの声にも反応しながら、上から差し込んだ刃で剣を受け止める。  ギリギリ甲冑にも当たらなかったみたいだ。 「ったく、集中しろよ。文句と指示は振り返らずとも魔法で飛ばして聞こえやすくしてやってんだ。ただ、否定はしておけ! 想像だけで鳥肌が止まらねぇ」 「全く、いちいち煩い男だ。という訳だから、愛とは関係ない。しかし、いきなり何の話だ」  ディートリッヒはテオドールの言うことを聞いて、今度は振り返らずに会話を続ける。  このゼパルという魔族は何がしたいのだろうか?  急に妙なことを語り出すのは困惑させる意図でもあるのかもしれないが、今はまだ分からなかった。

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