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221.愛のために戦う者
ゼパルは愛を語らせることによって勝負を混乱させるのが狙いだろうか?
テオドールはごちゃごちゃと考えることが面倒臭くなってくる。
適当に満足させてあとはディートリッヒの力押しで何とかするしかないだろうと結論付けた。
「おい、聖女サマ。お前が一番ソレっぽいから協力しろ。いい加減終わらせる」
「テオドール。貴方のことだからまた妙なことを言い出すのでしょう? 私たちが言い争っている間にも、ディーちゃんが頑張っているっていうのに……」
テオドールが不満そうな聖女を納得させるために思い付きの作戦を伝えると、それしかないのと言いながらも渋々納得したようだ。
ウルガーは演技なんて絶対無理だと言ってきたし、レイヴンは嘘でも論外だとテオドールが決めていたからだ。
「よし、じゃあ作戦を始めるぞ」
「仕方ないわね。分かったわ。ディーちゃん! 私のために頑張って!」
聖女は美しく微笑みながら、ディートリッヒを応援し始める。
ディートリッヒは声援に対して真面目に返そうとするだろうからと、テオドールが先手を打っておく。
伝音魔法を使用し、ディートリッヒのみに聞こえるように声を届ける。
『ディー……いいか、聖女サマとお前は今から禁断の恋人同士だ。分かったら彼氏らしく本気を出せ』
「なっ……」
ディートリッヒは反論しようとしたが、声の聞こえ方がいつもと違うことを察知したらしい。
珍しく冷静に判断できているようだ。
テオドールがこの方法で戦争中に作戦を伝えたこともあったし、戦いのことは脳筋でもうっすら覚えてたのだろうと納得する。
ディートリッヒはゼパルに気づかれないように、剣を打ち合いながら右足で地を二度叩く仕草をした。
これは理解したという合図だ。
否定の意味の場合、左足で二度地を叩くはずだ。
「見ていてください。俺は貴方のために目の前の敵を打ち滅ぼして見せましょう!」
ディートリッヒは下手な演技をするが、その言葉を聞いて剣を繰り出していたゼパルの動きにブレが生じる。
「コレハ……ソウカ。コレガヒメタルアイ……」
あの魔族は、恋愛小説が好きなのだろうか?
それとも魔族にも恋愛を司る魔族がいるのか……テオドールが見ても甲冑で表情は分からないが喜んでいるようにも見えた。
「テオドール様……団長は嘘っぽく高らかに言い切っているのに秘めたる愛とか言いませんでした?」
「ああ。よく分からんがゼパルは満足してそうだな。恋愛ごっこが好きなんじゃねぇか?」
「ウルガー……ディートリッヒ様じゃなければ、剣を振るう力なんて残ってないと思う。それに加えて敵を欺く演技ができるだなんて……」
なぜレイヴンは感心しているのだと、テオドールは内心辟易する。
確かに全力とは言わないがゼパルとディートリッヒは長い間打ち合っている。
飽きずによく戦い続けてるもんだと、テオドールも少し感心していた。
「貴方ならできるわ、ディーちゃん! 素敵よ」
聖女は聖女でワザとらしさを感じる。
この茶番の何がいいのか知らないが、早く終わらないだろうかとテオドールもあからさまに飽き飽きしてきた。
もう叩き潰した方が早いのでは? という思いを何度も我慢し続けている。
「イイゾ。オマエノアイヲミセテミロ」
「魔族だというのに、そこまで愛を……敵ながらその考えは悪くない。だが、俺にも果たすべきことがある。これで終わりにさせてもらうぞ」
ディートリッヒは剣を押し込んでゼパルとの距離を取ると、両腕を掲げて剣を天へ突き出す。
この形はディートリッヒのお得意のアレだと、テオドールは形を眺めながら思いだす。
ディートリッヒは魔法が使えない分、剣技が使用できるのだ。
テオドールはパチンと指を鳴らして更なる結界を張り巡らせる。
盾 よりも広範囲を囲めるが、魔力 の消費が少々多いのが難点だ。
とは言っても、この人数なら大したことはない。
防御結界の方が辺りへ張り巡らせるから発動速度も劣るし、場所が発動した位置に固定されてしまう。
盾 は守る範囲が狭いが、瞬時に発動できて発動している間も動かすことが可能だ。
「師匠、結界を張るほど危ないんですか?」
「ディーは後先考えないからな。何が飛んでくるかも分からねぇし念のためだ」
物理に特化した結界だが、魔法が飛んできそうならレイヴンも補助に入るだろうから問題ない。
ゼパルはおそらく魔法的な力を使う気配はないから、これで十分だろう。
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