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222.旋風
ディートリッヒは剣の柄をしっかりと握ったまま、空中で何度も剣を回転させていく。
普通の騎士が同じことをすると隙だらけだが、ディートリッヒの場合は回転速度と剣の大きさもあってすぐにディートリッヒの側に近寄れないほどの風の固まりができてくる。
その風は土埃を巻き上げ、筒状に変化し辺りを飲み込んでいく。
「な……なんですかアレ!」
「ウルガーは見たことなかったか。まあ、普段からやってたら辺りの地形が変わっちまうからなァ?」
「しかも、魔法の詠唱時間より早くないですか? 自ら巨大な風を生み出すだなんて……ディートリッヒ様すごいです!」
驚くウルガーは構わないのだが、ディートリッヒを褒めるレイヴンはテオドールにとって気に入らないことだ。
自分ならもっと早くできると自然と舌打ちする。
ただのゴリ押しでやれるのはある意味ディートリッヒらしいのだが。
「ディーちゃん、ちょっと張り切りすぎじゃないかしら。周りに何もなかったからいいけれど、訓練所に大量の剣が置いてあったら剣ごと巻き込むわよね?」
「アイツがあの技を使うときは、大体先陣で切り込んでいって馬の上でやり始めるからな。分かってる奴らは結界の中へ避難してくるって訳だ」
「確かに。あの風の中へ巻き込まれたらバラバラになっちゃいますよ! そんなに張り切らなくても聖女様への愛は伝わると思うんですけど、団長だからなー」
こちらの心配なんて知りもしないで、ディートリッヒは動きを止めずに円を描き続ける。
ゼパルは少し踏み込もうとして、結局踏み込めずに様子見しているのだろうか。
まるで技が完成するのを待ち構えているようにも見える。
ディートリッヒも警戒しながら風の固まりを大きく育てていく。
ディートリッヒの背丈も軽く超えたところで、剣をゆっくりと手元へと戻した。
「あまり大きくてもこの辺りを破壊してしまうからな。俺の愛する人に何かあっては大変だ」
「ディーちゃん、私なら大丈夫。叩きつけてやりましょう!」
「はい。おまかせを。旋風 !」
ディートリッヒは聖女の応援を背中へ向けて、集めていた筒状の風を言葉と共に解き放つ。
風はうねり、轟音と共にゼパルへ一直線に向かっていく。
「オオ……」
ゼパルは……風を剣で受けようとでもしているのだろうか?
風の渦に引っ張られながら、それでも風に抵抗している。
見た目以上に身体が重いのか重力を発生させて逆らっているのかは分からないが、なかなか吹き飛ばない。
「全力ではないにしろ、簡単に巻き込まれてくれないとは。さすが魔族」
「関心してる場合じゃねぇだろうが! さっさと追撃かまして……」
「……そう吠えなくとも、どうやら納得したみたいだ」
テオドールの問いかけにディートリッヒ珍しく冷静に答える。勝算があるというのだろうか?
テオドールが仕方なく腕を組み直して様子を見守っていると、風に抵抗していたゼパルの剣は弾き飛ばされて身体が浮き始めた。
「ミゴトダ。アイノチカラ、ミセテモラッタ」
一言だけを残して、鎧は風の中へ巻き込まれた。
揉みくちゃになるのかと思ったが、あっさりと気配が消える。
しばらくして風は吹きやみ、天へ舞い上がった輝く何かがストンとディートリッヒの手のひらに収まった。
「物足りなかったが……無事に終わったようだな。聖女様、数々のご無礼をお許しください」
ディートリッヒは銀の宝石を何故か聖女へ捧げるように差し出して、地へ片膝をつく。
相変わらず堅苦しくて面倒なヤツだと、テオドールは面倒そうな視線をディートリッヒへ向ける。
「気にしないで。私も楽しかったわ。それに発案者はテオドールよ。貴方が気に病む必要はないわ」
「余計なことしてないで、終わったならさっさと行くぞ。コイツといい、魔族のヤツらは何がしたいんだかさっぱり分からねぇ。まとめてかかってこいってんだよ」
「師匠……さては自分が暴れたりないからイライラしてますね? 本当にこの人は……」
レイヴンが急にテオドールへ説教してきたが、あながち間違っていないのでテオドールも言い返せない。
テオドール自身も色々真面目に思案したのに、子どものお遊びのようなことばかりやらされてイライラしていたからだ。
さっさとぶちのめしてくだらない児戯は終わらせるのだと言い聞かせながら、イラつきを抑えていた。
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