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225.魔塔主と魔物使いと他多数
レイヴンの方に間違いなく何者かが現れた気配があったが、大きな合成獣 の群れのせいで、そっちの状況が確認できない。
湧いてきた合成獣 たちは言葉で表現できないような雄叫 びをあげながら、テオドールの方へ一直線に向かってきている。
テオドールは大規模範囲魔法を使いたいのだが、宝石を手に入れる縛りのせいで立ち回りがやりづらくなっていた。
「しかも、お前はこっち側かよ魔物使い!」
「お前も合成獣 と俺の相手じゃ、簡単に主の元へは行けまい」
「簡単に行けるが、宝石を壊さないように気遣ってやるせいですぐに決着つけられねぇんだよ。ったく、どこまでもイラつかせてくれる」
テオドールは何故か魔物使いと接近戦をやる羽目になっていた。
魔物使いは容赦なくテオドールへ攻め込んでくる。
だが、この程度でテオドールは止められない。
「――雷の雨 」
テオドールは右手で雷の雨を降らせ、左手で張った盾 で魔物使いが放ってきたキツネの尾の刃を防ぐ。
雷の雨は一斉に合成獣 たちの身体を貫いていくが、奥から合成獣 が湧き出してくるのは止まらない。
「チィッ! キリがねぇ」
「主は残存勢力を全てつぎ込む張り切りようだ。いくら魔法使いとはいえ、数の暴力の前に一人では無力だ」
「いちいちうるせぇって言ってんだよ。あぁ……ぶっ放してえ。コイツらを一気に消し去る方が楽なんだよ。ちまちまやるのは性に合わねぇ」
テオドールは一歩後ろに飛びのいて、身体を捻りながら魔物使いから追撃で放たれたナイフを躱 す。
ついでに右手を弾いて魔法の軌道を変化させる。
「分割 」
テオドールは上から降らせていた雷の雨のうち一部を横向きへ変化させる。
湧いてくる合成獣 にも変わらず刺さり、ついでに魔物使いへも雨は襲い掛かる。
「あぁ! お前……」
キツネが尾で雷の雨を受けようとしたようだが、刃から見事に感電してポトリと地へ落下する。
魔物使いは慌ててキツネを拾い上げると、テオドールを睨みつけてきた。
「よくも、テオドールの可愛い相棒を……」
「可愛がってるってか? 俺にとってのレイヴンはそんなもんの比じゃねぇんだよ」
テオドールにとって魔物使いの言い分なんてどうでもよかった。今はレイヴンの安全が第一だ。
魔物使いはキツネを懐 へ仕舞い、ナイフを構えてテオドールへ突進してくる。
テオドールも雷の雨 を行使したまま、盾 を解除して雷の弾丸 を何発か撃ち込んでいく。
「レイヴン! 俺の声が聞こえるか? 聞こえたら返事しろ!」
とは言っても、師匠と弟子が身に着けている耳飾りの魔道具も妨害されている可能性が高い。
合成獣 の声が邪魔をするし、詠唱中は返事をすることすら危険だ。
テオドールもレイヴンの力は信じているが、相手は何をしてくるか分からない。
白髪は力を誇示 したがるため、何かの隠し種を見せつけてくる可能性が高い。
テオドールとしては何とかしてレイヴンの居場所を知りたいところだが――
「おい、テオ! こちらからじゃ何も見えないがどうなってる? お前らが囲まれてるのは合成獣 なのか!」
大声で喚 く合成獣 たちの鳴き声の合間を縫っても聞こえてくる大きな声。ディートリッヒだろうか?
「俺は何ともねぇが、レイヴンはどうなってる?」
ディートリッヒにテオドールの声が聞こえるかどうかは分からないが、テオドールは構わず目いっぱい声を張る。
「残念だが、舞台の上は合成獣 だらけだ! 俺たちの方には見えない壁に阻 まれて来られないみたいだが、俺たちもお前たちの元へ行けないようだ。レイヴンの姿も見えん!」
ディートリッヒは耳も良かったことを思い出す。テオドールの声を無事拾えたらしい。
アイツの野生もたまには役に立つじゃねぇかと、テオドールは一人笑む。
「レイヴンの方には雑魚の合成獣 じゃねえ、何かがいるはずだ。ディー、レイヴンを探せ!」
「分かった。俺たちが手伝えることは少ないが、回り込めば何かしら見えるかもしれない。待ってろ!」
他の声は全く聞こえないが、ディートリッヒの声だけはテオドールも何とか拾えそうだった。
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