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226.思わぬ助力

   何かしらの障壁(しょうへき)で外からの干渉はできないようだが、見ることだけはできるということだ。  音も遮断(しゃだん)していそうだが、ディートリッヒの声量が大きいため障壁すら突破するのかもしれない。   「召喚陣を壊さねぇことには、この群れは止まらない。数に限界はあるだろうが、付き合ってやる必要もねぇ。現状は速攻で数を減らすように魔法を連打するしかねぇな」  テオドールは怒り狂ってナイフを振るい続ける魔物使いの攻撃を(かわ)しながら、ついでに合成獣(キメラ)の数も減らしていくように魔法を放つ。  魔物使いが(あるじ)と言っていることから、宝石を所持しているのはおそらく白髪の方だろう。  テオドールも魔物使いをさっさと制圧したいところだが、合成獣(キメラ)の数が減らないとどうにもならない。 「簡単に突破させると思うか?」 「簡単に決まってんだろ。そろそろ沈んどけ」  テオドールは合成獣(キメラ)たちに雷の雨(サンダーレイン)を降らせつつ、魔物使いの攻撃を見定めて身体を(ひね)る。  頭の中で魔物使いを一撃で黙らせる魔法を思案しながら、時折風撃(ウィンドブロウ)で魔物使いの身体を弾き飛ばす。  そうすることによって、テオドールと魔物使いの距離はある程度保たれる。 「クソ……お前、魔法使いだろう? なぜこんなに肉弾戦が当たらない……」 「お前の攻撃なんざ、ウチの騎士団長さんに比べれば大したことはねぇんだよ。ヤツのことを褒めたくはねぇが、一撃が重くて速いからな」  ディートリッヒはテオドールにとっても腹が立つところもあるが、戦闘能力に関しては文句はない。  ただし頭は使えない戦い方だが、それすらもゴリ押しの強さで相手を圧倒してしまうからだ。  ディートリッヒは近距離、テオドールは少し離れたところから。この組み合わせで戦争も勝利してきたのだ。 「にしても、俺も武器はナイフくらいしかねぇからな。合成獣(キメラ)たちを処理しながら魔物使いと戦うってのが面倒だ。さっさと終わらせたいもんだが……」  さて、どうしたものかとテオドールは思案する。  一発で盤面をひっくり返すには、召喚陣を消し去ってしまうしかない。  そこに辿り着くまでの圧倒的火力と場を見渡せる目が欲しいのだが……周りを大小さまざまな種類の合成獣(キメラ)たちに囲まれているせいで、白髪の男の位置が分からない。 「テオ! 聞こえるか? レイヴンは無事だ! 何かと戦っているようだが……どうも動きが鈍い感じがする」 「全く伝ってこねぇが、レイヴンが何か戸惑ってるってことかァ?」  戦闘となればレイヴンだって腹は(くく)れるはずだが、何か理由があるのだろう。  あとの情報は辺りに響き渡る轟音と合成獣(キメラ)たちのうめき声でかき消されてしまった。  これでは(らち)が明かない。 『……苦戦しているようだな』 「どこから声が……って。クレインからもらった金の指輪か? ということは、噂の精霊王サマか」 『然り。お前の戦いは指輪を通して伝わってきていた。何やらシルフィードも騒いでいるのでな。自分のお気に入りの子が危険だと』 「危険って……それはレイヴンのことか? ならさっさと力を貸せ!」 『全く……礼儀も何もない男だな。だが、私は種族関係なく強い者が好きだ。お前からは強い意志と豊富な魔力(マナ)を感じる。いいだろう、力を貸してやる』  ごちゃごちゃ言う割には分かりやすい精霊王サマだと、テオドールはニヤリと笑む。  テオドールにとっても、その方が分かりやすくて都合が良いからだ。 『我が名はサラマンダー。今より少しの間、お前の手となり足となろう』  金の指輪にはめ込まれていた赤い宝石が輝くと、炎がぶわりと立ちのぼる。  炎は絶え間なく吹き出して大きな炎となり、火の粉を降らして空を焦がすように大きく広がりながら徐々に何かの形へ収束していく。  大きな翼と立派な尾。そして、特徴的な角ときたら……ドラゴンだろうか?  テオドールは他の精霊王に会ったことがないから知らないのだが、強そうな見た目はなかなかいいと一人笑う。

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