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227.炎の精霊王
その場に溢れた炎から逃れるように、魔物使いも慌ただしく動き回っている。
いきなりテオドールの指からドラゴンが出てきたように見えたからだろう。
「炎のドラゴンだと?」
「ああ。お願いを聞いてくれるってよ。助かるぜ。早速だが、サラマンダー。とりあえず場を綺麗にしてくれ。人間はそのままで頼む。ついでに召喚陣も焦がしてもらって構わねぇぜ」
「承知した」
サラマンダーは大きな炎の翼をはためかせ、炎の渦を巻き起こすと的確に合成獣 たちだけ焦がしていく。
サラマンダーは上空にいるから、地上の様子がよく見えるはずだ。
テオドールの計算通りならば、合成獣 たちのみを一掃し召喚陣を消し去ることが可能という訳だ。
「そうすりゃ、俺はさっさとお前を黙らせることができるわけだ」
「なっ! ッグ……」
サラマンダーに気を取られていた魔物使いを黙らせるために、ある程度ぶちあてれば効果のある魔法を唱えた。
重力の雨 は指定範囲に重力を追加して降らせていく魔法で、一か所に収縮する重力縛り より雑に使用しても効果が出やすい。
他にも身動きできないようにできる魔法はあるが、状態異常系は相手によっちゃ効きづらいときもある。
重力系は魔力 の扱いに長 けているのもそうだが、魔力消費量がやや高いというのも使いづらい点ではある。
テオドールは特に問題ないが、ひよっこの魔法使いが使用するとへろへろになってしまうかもしれない。
「ったく、手間取らせやがって。お前程度じゃ相手にならねぇんだよ。面倒なのはお前の合成獣 の能力くらいだからな」
「うぐ……」
かろうじて息はさせてやっているが、テオドールとしては本当はこの場で始末したいくらいだ。
レイヴンが嫌がると思って我慢しているだけで、宝石が手に入るなら魔物使いの命もどうでもいいと思っていた。
ただ、生かしておけば一応は交渉材料になる可能性はあるかもしれないと思ったまでだ。
テオドールが魔物使いを沈黙させている間に、サラマンダーはテオドールの狙い通りに辺りの合成獣 たちを炎で焦がしていく。
ついでに飛んだ炎が鉄格子の向こう側に存在していたらしい召喚陣すら燃やし尽くしてくれたようだ。
新たに合成獣 が湧いてくることもなくなって、そこら中合成獣 たちの死骸だらけだ。
「炎が消えればレイヴンの姿が見えるはずだ。サラマンダー、白髪の男と俺の可愛い弟子は確認できるか?」
「精霊使いが荒い男だ。白髪の男は喚いているだけで、お前の求める子の近くにいる」
「レイヴンは無事か?」
「すぐに分かる。安心しろ」
サラマンダーが言うなら間違いなさそうだと、テオドールは指し示された方向へ走る。
黒焦げの合成獣 たちの間を縫って通り抜けると、見慣れた愛しい黒髪が見えてくる。
「レイヴン!」
「あ……テオ?」
テオドールは周りの状況よりも、レイヴンの無事に安堵する。
遠目で見ても怪我はなさそうだ。
こちらも辺りには戦いの跡が残っているし、レイヴンの側には小さい者と美しい青い者がふわりと浮かんでいる。
テオドールが色々と聞きたいことはあるが、まずはレイヴンの側に行くのが優先だ。
「なぜだ! なぜ勝てない? ヴルペも敗れたというのか?」
「誰だそれ。もしかして魔物使いのことか。残念ながら生きてるがな」
レイヴンの方も戦いは終わったらしく、白髪の男は戦意喪失しているようだ。
他の面々も……どうやら敵意はないようだ。
「空高く赤いドラゴンが現れたと思ったら……あちらはもしかして?」
「サラマンダーだとよ。で、そっちは……」
テオドールが説明を求めると、レイヴンがまず美しい方を指し示した。
サラマンダーとは真逆の青で統一された身体に、頭にはドラゴンと似通った角。
美しく長い髪と美人な見た目に人魚 の身体を見れば、ある程度予測できる。
「こちらはウンディーネ様です。俺が困っているときに現れて助けてくださいました」
「で、さっきからお前にくっついてる見た目がごちゃついてる子どもは?」
ウンディーネはテオドールも何となく分かっていたが、子どもはどう見てもおかしい。
灰色の長い髪は人間のようだが、ネコ耳とコウモリの翼、先が三角の紫尻尾を持つ少女。
この子に関しては、テオドールも目の前でわめいてる男を問いただした方が早そうだと判断する。
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