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228.戸惑いながらの戦い
時は少し巻き戻り――
レイヴンの目の前に何かが現れ、魔物使いに行く手を阻 まれたテオドールは多くの合成獣 たちに飲まれレイヴンと分断されてしまう。
そしてレイヴンの目の前には、白髪の男と謎の存在のみが残っていた。
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「君は……女の子?」
「おい、和むな試作品。お前は目の前の敵を倒す使命があるだろうが」
「たおす? あそぶの?」
レイヴンの目の前には謎の女の子がいる。
レイヴンより背も低いし、年齢的には十歳くらいだろうか?それくらいの小さい子だ。
レイヴンは驚いて魔法の詠唱を止めてしまったが、女の子から敵意らしきものは感じられない。
白髪の男が試作品だと言っているということは、この子は創られた合成獣 なのだろう。
確かに彼女の見た目はレイヴンより小さな女の子に見えるが、灰色の長い髪の上にはネコの耳が生えていて背中にはコウモリの翼が生えている。
先が三角の尻尾まで生えているということは、人間と魔物の合成獣 なのだろうか?
こんな小さな子を実験材料にするだなんて、テオじゃないけど今すぐにぶっとばしてやりたくなると、いつも大人しいレイヴンでも怒りがこみあげてくる。
レイヴンが色々考えていると、急に女の子がレイヴンへ手のひらを向けてきた。
彼女の手のひらに集まっている力は……魔力 だ。
「こおり!」
「無詠唱! ……っ」
レイヴンは反射的に顔を左にそらすと、耳の側を氷の粒が通り抜けていく。
女の子は魔法が使えるらしい。
本気ではなさそうだが、無詠唱で魔法が使えるということはやはり普通の子ではないのだろう。
「おい、へたくそ! いいか、こちらはお前にかかっているのだ。こちらの魔法使いを捕らえてしまえば、あの嫌味な魔法使いは手が出せまい。しっかり私を守れ」
「なっ……あなた、それでも大人ですか? こんな小さい子にヒドイことをしておいて! 許せない……」
「私は私の実験の成果を見せられればそれでいい。お前の感想などどうでもいいのだ。実験を続けるためには協力者の力が必要。すなわち、お前たちに勝てばいい」
レイヴンは更に頭にきたのだが、女の子はレイヴンと遊べると思っているのか嬉しそうに笑っている。
レイヴンが話している間にも、氷をどんどんこちらへ放ってきゃっきゃとはしゃいでいるみたいだ。
「君は騙 されてるんだ! この戦いに意味はないんだよ?」
「たたかい? たたかいはあそぶ?」
「違う! 戦いは人を怪我させたり……とにかく今、君がしていることはいけないことなんだよ?」
「どうして? あそんじゃだめ?」
レイヴンもゆっくりと話してあげたいのだが、彼女は話しながらずっとレイヴンへ氷を放つことをやめない。
もしかして、魔力 の所有量も多いのだろうか?
全く疲れる様子もなさそうだし、持久戦になったら確実にレイヴンの方が不利になる。
それに……レイヴンがここでやられてしまったらテオに迷惑をかけてしまう。
「テオは俺のことを信じてくれたんだ。大丈夫だと言ったのだから、何とか切り抜けるしかない」
「……おにいちゃん?」
「君を攻撃しないように、何とかあちらの男を何とかする方法を考えないと……だけど、攻撃が激しすぎて気を抜けない」
「あたしたのしい! もっとあそぼ!」
レイヴンは乱打される魔法を避けながら、防御 と強化 で時間を稼ぐ。
身体強化をしても、彼女の攻撃は止むことはない。
レイヴン自身も体力に自信があるほうじゃない為、何とか女の子の気をそらして男を黙らせるしかない。
「でも、女の子に攻撃魔法をぶつけるなんて……俺にはできない。一体どうすれば……」
「ハハハ! いいぞ、試作品。頑張ったらお前の好きなものをやる。さっさとそいつを倒してしまえ!」
「すきなの? うん! わかった」
レイヴンが思案しているうちに、女の子は両手を上げて魔力 を高めていく。
彼女の頭の上に大きな炎の塊が膨らんでいき、みるみるうちにレイヴンの身体の二倍ほどの大きさになってしまう。
レイヴンも慌てて水の盾 の詠唱に入るが、女の子の方が早い。
あの大きさを避けられるか分からないが、間に合わなければ躱 すしかないとレイヴンも覚悟を決める。
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