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229.青き者の慈愛
レイヴンがある程度攻撃を受ける覚悟で詠唱を終えたその時、レイヴンの指にはめられていた銀色の指輪が青く輝きだす。
この指輪は、クレインがくれた指輪だ。ということは……?
『大丈夫。心配いらないわ。あなたにもようやく力を貸すことができる』
「もしかして、あなたは……」
レイヴンが言葉を言い終える前に、ふわりとした泡で包まれる。
丸い球体はレイヴンの身体を覆い、女の子から放たれた炎の球は泡にぷよんと当たってじゅわりと蒸発してしまった。
「すごい……それに、とても綺麗だ」
「ふふ。ありがとう、レイヴン。あなたの覚悟が私にも伝わってきたわ」
女の子もビックリしていたが、レイヴンも同様に驚いていた。
だが、レイヴンは現れた者の予想がついていた。
全てが青く輝く美しい姿で、長く美しい青髪にドラゴンと似通った角を持ち人魚 の身体を持つ者といえば――
「ウンディーネ様、俺を助けてくれたのですね。ありがとうございます」
「ええ。レイヴン。愛しい子。でも、今は再会を喜んでばかりもいられませんね」
ウンディーネは今の状況を冷静に判断したらしい。
レイヴンも頷き、女の子の方を改めて見る。
女の子はぴょんぴょんと跳ねて、ウンディーネを指さした。
「わぁー! あおいおねえさん?」
「な……なんだこの生命体は! 私の研究でも見たことがないが……これはぜひ手に入れたい。おい、試作品! 女も捕まえろ!」
「え? おねえさんもあそぶ?」
ウンディーネは白髪の男の言葉を聞いて悲しそうに微笑んでから、レイヴンにだけ聞こえるように話を続ける。
「いいですか、レイヴン。私があの子の注意を引きます。あなたはまずあちらの愚 かな人間を倒して、あの子に自分は強いんだと見せてあげるのです」
「それはもちろん。ですが、あの子をどうすればいいのか困っていて……」
「心配ありません。あの男さえ何とかすれば、あの子はきっと大丈夫。あの子の心は無垢 なまま。あなたが話せばきっと分かってくれます」
ウンディーネは優しくレイヴンへ微笑みかけてくれた。
その声色と笑みは、レイヴンの心を優しくくすぐる何かがある気がする。
ずっと聞いていたいような、涼やかな声色だ。
「分かりました。ウンディーネ様、お願いします」
「ええ。では、いきますよ」
ウンディーネはにこやかな表情を見せると、ふわりと浮かんだまま女の子の方へ少し近づく。
女の子は興味津々なようで、あそぼあそぼと嬉しそうに笑っている。
「何! クソ、ならばあの嫌味な魔法使いの方へ行かせている合成獣 をこちらへ回して……」
「そうはさせない! ――光の呪縛 !」
レイヴンが以前洞窟で使ったように手のひらから光を放ち、網目状に変化させていく。
聖女のものと比べて単体にしかできないが、拘束力はある魔法だ。
何か合図を出そうとした動きを止めるように拘束 に切り替えて、光を白髪の男へ絡ませていく。
「ぐぅ……無駄だ、私の合図ですぐにこちらへ……」
それでも抵抗して、男は何か言葉を紡ぎ出そうとしているように見えた。
レイヴンだと魔法は同時に行使できないから、男を妨害できない。
すると、ウンディーネが水球を飛ばして男の口を塞いでくれた。
「ごぼぼっ!」
「ふう。あの子は私がつくった泡で遊んでいますから大丈夫ですが……この男にはおしおきが必要ですね。でも、大丈夫。力を貸すものは私だけじゃありません」
ウンディーネが空を指し示すのと同時に、大きな炎が空へ舞い上がりドラゴンの形になっていくのが見えた。
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