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230.水の精霊王

「あれは……まさか、サラマンダー様?」 「ええ。テオドールのことが気に入ったみたいですね。ふふ。あの人は強い者が好きだから」  空に現れた大きなドラゴンを見て、女の子は大はしゃぎだ。  今度はドラゴンを指さしてぴょんぴょんと跳ねまわる。   「すごいすごい! おっきい!」 「ええそうよ。いいこね? さあ、あなたもこの悪い人よりこっちのお兄さんと仲良くしましょう。大丈夫、この人はもうあなたに意地悪したりしないわ」  ウンディーネが優しい声色で話しかけると、女の子はレイヴンが捕まえている男をじっと見つめる。  そして、レイヴンと男を交互に見比べて悩むような仕草をする。 「んー……おにいちゃんはつよい?」 「うん。この人よりは強いよ。それに、君に意地悪や痛いこともしない」 「おねえさんも?」 「ええ。だから、あなたもいいこになれるかしら? いいこにしていたら、きっと楽しいことがたくさんあるわ」 「んー……」  女の子はじっとレイヴンとウンディーネを見上げて考えているみたいだ。  その仕草はさっきまで恐ろしい魔法を放っていた子とは思えないくらい可愛らしい。 「わかった! いいこにする」 「ありがとう。じゃあ、戦うのはやめて仲良くしよう」 「うん!」  女の子は納得してくれたみたいだ。これも全てウンディーネの助言のおかげなのだろう。  空で勇猛に炎を生み出すサラマンダーのおかげで、合成獣(キメラ)たちがどんどん倒れていく。  レイヴンも急に囲まれて分断されたとは思っていたのだが、その原因は合成獣(キメラ)たちが生み出され続けていたせいだったんだなと改めて理解する。  だからテオドールの姿も見えなくなっていたのだろう。  レイヴンは目の前の女の子で手一杯になってしまったから、周りが見えていなかったみたいのだと痛感する。 「げほっげほっ……あぁ……私の作品たちが……」 「サラマンダー様が全て焼き尽くしてくれているから、お前の思い通りにはならない。それに一対一ならお前には負けない」  ウンディーネの水から解放され男もやっと息はできたようだが、女の子はレイヴンの側にいて大人しくしており、白髪の男の切り札はなくなったはずだ。  この男はずる賢いだけで戦闘能力はなさそうだと考えられるし、捕縛魔法も効いた今ならレイヴンも状態異常魔法が使える。  男は戦意喪失している様子だし、また何か変な動きをしたら黙らせればいいとレイヴンも無意識でテオドールのようなことを考えていた。 「恐ろしい者たちを生み出す悪しき召喚陣も燃やしたみたいですね。ほら、もう大丈夫ですよ」  ウンディーネの言葉で顔を上げると、焦げた合成獣(キメラ)たちの隙間を縫って何かがこちらへ近づいてくる。  見慣れた金髪と少し焦ったような赤い瞳がレイヴンをまっすぐに捉えているのが分かり、緊張で固まっていた身体から力が抜けていく。 「レイヴン!」 「あ……テオ?」  レイヴンもテオドールの顔を見たら安心して、少し気が抜けた返事をしてしまった。  レイヴンを信じてくれたはずだが心配もしてくれていたんだと思うと、まだまだだなという気持ちと共に少し嬉しくなる。  しかしテオドールの方に魔物使いがいたはずなのに、テオドールは魔物使いと合成獣(キメラ)たちを同時に相手していたということだろうか。  あの数を難なく相手していたとしたら……やはりテオドールは魔塔主でレイヴンにとって超えられない師匠なんだと思い知らされる。  テオドールはさっと辺りの状況を見回して状況を確認していたので、レイヴンの方から話しかける。 「空高く赤いドラゴンが現れたと思ったら……あちらはもしかして?」 「サラマンダーだとよ。で、そっちは……」  テオドールにも改めて確認してみたが、やはりサラマンダーがテオドールに手を貸していたようだ。  そして、テオドールもレイヴンの側にいる女の子とウンディーネを交互に見ている。  レイヴンはまずウンディーネに手のひらを向けた。 「こちらはウンディーネ様です。俺が困っているときに現れて助けてくださいました」 「で、さっきからお前にくっついてる見た目がごちゃついてる子どもは?」  テオドールもウンディーネにはある程度予測がついていたんだろう。  そして、レイヴンにくっついている女の子に意味深な視線を落とす。  女の子についてレイヴンも詳しいことは分からないため、目の前で呆然としている白髪の男から聞き出すしかない。

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