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231.一時の勝利
とりあえず白髪の男から宝石を取り上げないと、勝ったことにされないのも面倒だ。
テオドールはさっさと寄越せと白髪の男に対して圧をかける。
「私が作った作品たちが、このような無残な姿で……」
「能書きはどうでもいいんだよ。さっさと出すもの出せ」
「クソ、渡したくない。だが、約束を破れば私の命はすぐに消える。そういう契約しか結べなかったのだ。あぁ……」
テオドールはグダグダ言っている口を塞いで腕をもいでやりたい衝動に駆られるが、もらうものをもらわないとテオドールもどうなるか分からないのが余計に腹立たしい。
男は苦しみながら、青の宝石を振るえる手で差し出してくる。
「ったく。手間かけさせやがって」
「テオ……言っていることが悪党なんですよ」
「これでも紳士的に振る舞ってやってるんだよ。宝石なんて縛りがなかったら、この場で粉々にしてやるんだが……」
辺りに立ち込めていた煙も晴れてきて、障壁 の中もくっきりしてきた。
ディートリッヒがすぐに寄ってきて、無事か! と大きな声で叫び始めた。
テオドールは大丈夫だから少し黙ってろと返して、ディートリッヒを大人しくさせてからレイヴンたちに改めて向き合う。
「おにいちゃん、おじちゃんおこってるの?」
「ええと……あっちのおじちゃんはいつもあんな感じだから大丈夫。そちらのお兄さんは優しい人だから安心して」
「おい、なんで俺がおじちゃんでディーがお兄さんなんだよ」
「ややこしくなるから黙っててください、師匠」
レイヴンは障壁が消えそうだからとテオドールを呼ぶ呼び方まで変える。
その間もウンディーネは楽しそうにしていた。
気付けば、サラマンダーの姿が見えない。
さっきまで空にデカデカといたというのにどこへ行ったのだろうか?
「我はここだ。話をする間はこの姿の方がしやすいだろう。ところで、この男とあそこで転がっている男はどうする気だ?」
テオドールも急に話しかけられたために少し驚いてしまったが、赤い炎を思わせるような短髪の男が隣に立っていた。
切れ長の瞳も赤いし、軽装備だが赤が多いせいですごく分かりやすい。
「あんた人間形態に変化もできるのか、便利だな精霊王サマは」
「あら、サラマンダー。まだ帰らなくていいのですか?」
「そういうお前こそ。まあ……気持ちは分からんでもないが」
サラマンダーは何か意味深なことを言っているが、まずはレイヴンを害したヤツらを切り刻む前に問いたださないといけない。
テオドールは先ほどからブツブツ言っている錬金術師を足で蹴り飛ばし、上から魔力 で再度圧をかける。
「うぐぅ……」
「で、あのちまいのはお前の仕業か? アイツを元に戻す方法は?」
「ハハハ……混じったものは戻せない。試作品なのだから分かるはずもない」
その言葉を聞いて先にレイヴンの方が反応し、拘束 を強めて白髪の男を締め上げる。
「レイヴン……大丈夫よ。時間はかかるかもしれないけれど、私たちとエルフなら何とかできるかもしれないわ」
「ウンディーネ様……」
「確かに人間の文献よりも、エルフたちの知識にかけるのもアリだな。そういう訳だから、コイツはもうヤっちまってもいいか」
テオドールがトドメを刺そうとするのと同時に障壁がなくなって、飛んできたディートリッヒに腕をつかまれた。
「落ち着け、テオ。この男たちは法に則 って裁きを下すべきだ。それに聞きたいことがまだ山ほどある」
「……クソ、また面倒なことを言いやがって」
「師匠、気持ちは嬉しいですがこの子のためにも情報を聞き出さなくてはいけないはずです。今はしらばっくれていても何か隠しているかもしれません」
確かに男たちが他にも何かしょうもないことをやろうとしているなら、止めなくてはいけない。
テオドールは仕方なく魔法を解除する。
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