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232.合流して自己紹介
とりあえずこの子どもをどうするかという話になるのだが、レイヴンにくっついて離れようとしない。
子どもとはいえ俺のレイヴンにベタベタ触ってるのも微妙に腹立たしいと、テオドールは一人腹を立てる。
「……師匠、まさかこの子を見てイライラしてます?」
「うわぁ……テオドール様、大人気ない。子どもに嫉妬……いてっ!」
テオドールがムカついた分は、ウルガーの頭に拳を落として少しスッキリさせる。
ついでに左手でレイヴンの頭をよしよししながら髪の毛をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。
「ちょっと! はぁ……本当に大人気ない……」
「仕方ないわよ。だってテオドールだもの。ところで……あなた、名前は?」
レイヴンを撫でて一息ついてるってのにいちいち聖女サマもうるせぇなと、テオドールは聖女を軽く睨みつける。
女の子はテオドールたちのやり取りすら楽しそうに眺めていたが、なまえ? と首を傾げた。
「んー……わかんない。しさくひん?」
「試作品? 分からないとはどういうことだ? しかし、この子の見た目は……」
「ディー、お前が考えると長くなるから説明は後だ。合成獣 として創られた存在だろうから色々規格外だ。だからこそ、白髪の男を生かしとけって話なんだからな」
「なんだと! それは……いや、この考えだとテオとかわらん。俺も冷静にならねばな」
ディートリッヒも剣を引き抜いて思いっきり首を落とそうとしている。
テオドールに説教しておいて、考えることが一緒だ。
これだから単細胞はとテオドールはディートリッヒを見ながらため息を吐く。
「はい。この子に罪はありませんから。とりあえず一緒に連れていきましょう。どうするか考えるのはここですべきことが終わってからです」
「レイヴンの言う通りだ。そこに転がっている男も一緒に引き渡してもらえるだろう。遊戯とやらに勝利したのはこちらなのだからな」
ディートリッヒの話を聞いていたのか知らないが、最奥 の鉄格子の奥からギィという音が聞こえてくる。
どうやら扉が開いたようだ。
「こいつらを連れていくのも面倒だな。おい、魔族。俺らの戦利品を何とかしろ」
「師匠! そんな無茶苦茶なことを……」
テオドールの声も聞きながら魔族は確実にどこかで眺めているのだろう。
すぐに笑い声と共に二人の男の身体が浮かび上がり輝きだす。
その姿はあっという間に小さくなり、急に現れたガラスの入れ物の中に閉じ込められていった。
『こうすれば持ち運びしやすいだろう? 好きにするがいい。その容器ごと叩き割れば元の姿に戻る』
「気が利くじゃないか。じゃあ、嬢ちゃん。コイツを持っておいてくれ。そこのお兄ちゃんの大事なもんだからな」
「わかった! だいじなもん!」
女の子は素直にテオドールから入れ物を受け取って両手で抱える。
中で白髪の男が何か喚 いているみたいだが、魔物使いはしゃべる気力すらなさそうだ。
「それで、精霊王のお二人さんはどうするんだ?」
「テオドール、とりあえず色々ありすぎて分からん。説明してくれ」
さっきから話についてこれないディートリッヒと他の面々のために、テオドールとレイヴンが一連の流れを説明する。
あのごちゃごちゃした中だと、ところどころ見えているだけじゃ意味が分からないのだろう。
「書物の中でお名前を拝見したことはありましたが、こうしてお会いできるだなんて。私はクローディアンヌ。聖女と呼ばれていますが、訳あってこのような姿で失礼いたします」
「俺は騎士のウルガーです。こちらは騎士団長のディートリッヒ。簡潔な自己紹介ですみません」
ディートリッヒに自己紹介をさせない辺りさすがウルガーだなと、テオドールは口元で笑む。
ウルガーも有効な時間の使い方が分かっているのだろう。
「構いませんよ。私は水のウンディーネ。こちらは炎のサラマンダー。指輪の力で召喚されたので正式な召喚ではありませんが……もう暫くは姿を維持できそうです」
「正式な召喚ではない場合、力は全て出し切れないし使える力に制限がある。だが話すくらいならば問題ない」
互いの自己紹介が済んだところで、ウンディーネが改めてレイヴンを見遣る。
テオドールはウンディーネの表情を見て、何か言いたいことがありそうだと察した。
「魔族なんて待たせておけばいいだろ。それより、言いたいことがあるなら言っちまえば?」
ウンディーネを促すと、ありがとうとテオドールへ微笑みかけてきた。
この笑い方はどうも絆 されてしまうと、テオドールは何気なく視線を逸らす。
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