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233.ウンディーネの話

   ウンディーネは全員を見回して話すかどうかを迷っているみたいだ。  もしかして、秘密にしたいような込み入った話ということだろうか? 「レイヴンだけに話したいってんなら、俺らは聞かねぇからよ。防音結界はいつでも張れるぞ」 「そうですね……レイヴンに話があります。でも、私も少し緊張しているのです」 「それなら、テオドール様だけ一緒に聞けばいいんじゃないですか? なんてったって父親公認の仲なんでしょう?」  ウルガーの言葉にウンディーネも表情を和らげる。  父親という部分に反応したのか? よく分からないが、レイヴンに視線を流すと頷きを返してきた。 「師匠はこんな見た目だし粗暴な言葉遣いしかできない人ですが、俺の尊敬している信頼のおける人です。許されるのならば、師匠と一緒にお話を聞きたいと思います」 「分かりました。テオドールも一緒に聞いてください。他の皆様は少し待っていてもらえますか?」 「ええ。じゃあ、お嬢ちゃん。私と一緒にいましょうか。ディーちゃんとウルガーちゃんも少し離れていましょう」  聖女が女の子を呼ぶと、大人しくとてとてと聖女の元へ駆け寄っていく。  ディートリッヒは何か言いたげな顔はしていたが、ウルガーにじっと見つめられると大人しく一歩離れる。  サラマンダーは我関せずといった雰囲気で、好きにしろと顔に書いてあるので問題ないだろう。 「じゃあ、一応防音結界を張るぞ」  テオドールはパチンと指を弾いて結界を作動させる。  結界の中にはテオドールとウンディーネとレイヴンだけだ。 「ありがとう、テオドール。あなたは察しがよさそうだから、何か気づいていそうだけれど……」 「別に大したことじゃねぇが。あんたを見てるとどうも(ほだ)されちまうんだよな。俺がそう思うのは……」  レイヴンへ視線を流すと、レイヴンはどういう意味ですか? と首を傾げた。  改めて二人を見比べると、雰囲気が似てるのかもしれないな。 「そうですか。あなたはレイヴンのことを大切に思ってくれているようですね。激しい面も持ちながらそれでもレイヴンを一番に考えてくれていることが伝わってきます」 「そうかあ? 会ったばっかりだってのによく分かるな。まあ、俺も隠しちゃいねぇけどよ」 「そう改めて言われると、何だか恥ずかしいんですけど……」  レイヴンはこの程度のことでも照れ始めるのだから、本当に可愛いものだとテオドールは自然と口元が緩む。  テオドールが両腕を伸ばしてレイヴンを後ろから抱きしめてやると、ちょっと! という抗議の声があがる。 「何してるんですか! 今、そんな場合じゃ……」 「いいから。たぶんこうしてた方がよさそうだ。俺はあんたの言いたいことが少し分かった気がする」 「ありがとう、テオドール。本当は私も今すぐにでもレイヴンを抱きしめてあげたいけれど……それは正式に祝福を与えたらになるかしらね」  ウンディーネの表情は優しいがどこか寂しそうな感じもする。  テオドールが絆されるということはウンディーネとレイヴンは何かしら共通点があるということだろう。  とくれば、大体の予想はできる。 「そろそろ心の準備はできたか? じゃあ、話してもらおうか」 「そうね……レイヴン。お父さん……つまりクレインから聞いたのよね。あなたの生い立ちを」 「はい。俺のお父さんはエルフでお母さんは人間。だから俺はハーフエルフなんです。おかげでウンディーネ様にもこうしてお会いできる訳ですが……」 「あなたの母親は命を落とした。だけど……力を与えてもらって生き返った……というよりも、別の存在になった。というのが正しいかしら」  ウンディーネは悲しそうに優しく微笑する。  別の存在になれるものだろうか? おそらく特別なのだろうが。  レイヴンも何となく話が呑み込めてきたのか、呆然とウンディーネを見つめたまま動かない。

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