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234.あの日の真実

   ウンディーネの言うことが正しいのなら、予想されることは一つだけだ。  レイヴンの母親は命を落としたが、別の存在に生まれ変わった。  それは人間として生まれ変わったのではなく、別の生命体になったということだ。 「まさか……」 「私の昔の名はカナリー。レイヴン、あなたの母親です」 「え……おかあ、さん?」  レイヴンは固まって動けない。テオドールは腕に力を込めてレイヴンに体温を伝えていく。  言葉が続かないレイヴンの代わりに、今度はテオドールが話を促す。   「つまり、あんたは命を落としたあと精霊王に救われたってことか?」 「そうです。私はレイヴンをエルフたちの追っ手から逃すために洞窟の中へ隠しました。その時の私には何もできることがなくて……必死に逃げまどって追っ手を引き付けるくらいしかできなかったのです」 「そんな……じゃあ、あなたは……」  ウンディーネは悲し気に微笑んでから少し俯く。  話しづらいだろうが、記憶が蘇った今はレイヴンも知る必要がある話だ。 「私は追い詰められてしまって……崖の上から身を投げたのですが、落ちた先に美しい水が満ちていたのです。そこで先代のウンディーネ様に出会いました」 「精霊王がねぇ。なんというか、不思議な話だな」 「ええ。私のことを不憫(ふびん)に思ってくださって、いつか息子に出会う時があれば力を貸してやりなさいと精霊の力と命を分けてくださったのです」  レイヴンは黙って耳を傾けていたが、衝撃を受けているのか身体を小刻みに震わせている。  テオドールがぽんぽんと頭を撫でてやると、レイヴンは甘えるようにテオドールへすり寄ってきた。 「テオと一緒に聞いて良かったかもしれない。お母さんの最後を聞いて胸が張り裂けそうだけど、こうして再び会うことができるだなんて……」 「これも先代のおかげです。そして正式に先代から力を全て受け継ぎ、精霊王ウンディーネとなりました」 「なるほどな。じゃあ、あんたはレイヴンの母親ってことなんだな。精霊だってのにどうも雰囲気が似てるとは思ったが」  レイヴンとウンディーネ。精霊とハーフエルフで種族も違うというのに、笑い方と雰囲気が親子を感じさせる。  レイヴンは母親似ということなのだろう。 「驚かせてしまってごめんなさい。でも、こうして会うことができて嬉しいわ」 「こちらこそ、取り乱してしまってすみません。でも……今は嬉しい気持ちでいっぱいです」 「良かった。受け入れてもらえるか不安だったけれど……伝えられて安心しました。私のことは気軽にお母さんと呼んでいいのよ」  柔らかに微笑むウンディーネに対して、レイヴンは驚きから立ち直って今度はもじもじし始める。  テオドールがもう一度くしゃくしゃと頭を撫でてやると、レイヴンは両手で自分の頭を押さえながらテオドールを見上げて睨んでくる。 「こういうときに子ども扱いしないでください! その……側にいてくれたことは感謝してますけど」 「相変わらず素直じゃねぇなァ? これでご両親公認の仲ってことか」 「でもテオドール。あなたレイヴンよりかなり年齢が上なのでは?」 「痛いところを突っ込んでくるのはさすがお母さまってか。まぁ……十一歳差だからなァ」  テオドールは素直に言ったのだが、ウンディーネは驚いているようだ。  指輪からずっとテオドールたちを見ていたのではと思っていたのだが、違うのだろうか? 「テオドール、私たちは指輪を通してあなたたちを感じることができますが……それも私たちが意識して強い魔力(マナ)を感じる時のみ。覗き見をしている訳ではありませんよ?」 「そうか。なら、いいんだけどよ。夜のことまで覗かれたんじゃ、さすがにな」 「ちょっと! テオ、余計なことを……」 「夜って……テオドール。あなた、まさか……」  さすがにレイヴンの母親はクレインほど心は広くないのだろう。  テオドールはどうしようかと思案したが、誤魔化しても仕方ないなと不敵に笑んでみせた。

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