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236.遊戯の終着点

   皆でレイヴンを(なだ)めてから、鉄格子を潜って漸く大扉の前に立つ。  扉は木製だが細工も凝っていて、美しい悪魔と天使が左右に一体ずつ描かれていた。  ただし、悪魔と天使は互いに絡み合いながら血を流しているよく分からない芸術作品のようだ。 「何、この悪趣味な扉は。今すぐ燃やしてしまいたいけれど、どうやらここに今まで集めさせられた宝石をはめ込むようね」  聖女の言う通り扉には穴が開いていて、ご丁寧にくぼみが薄く色づいている。  どうやらこの色と宝石を組み合わせろということらしい。  このくだらない仕掛けに何の意味があるのかも知らないが、テオドールにとって魔族の考えることなんて知ったことではない。 「さっさと終わらせようぜ。ったく、こういう意味不明なことをさせるのが芸術だとか思ってんのかァ?」 「私に言われても知らないけれど、さっさと終わらせることについては賛成よ」  答えながら聖女が緑の窪みに緑の宝石をはめ込む。  次は嫌そうな顔をしながら、ウルガーが赤の宝石を手に取って聖女の隣に立つ。 「ですね。もう魔族とは関わり合いになりたくありませんから。今回だけですよ」 「国と友の危機ならば、強敵だろうと立ち向かうのは騎士の本分だ。ウルガーも心しておけ」 「あぁ……はい」  反論を諦めたウルガーと相変わらず暑苦しいディートリッヒが揃って宝石をはめようとする。  が、ディートリッヒは黄の宝石を間違ったところにはめようとしてウルガーに直された。  恰好をつけたところで、ディートリッヒは周りを全く見ていない。  こんな子供だましの仕掛けですら引っかかるのは、ディートリッヒくらいだろう。 「きっとこの奥に……行きましょう、師匠」 「さっさと終わらせてやろうぜ。くだらないお遊びに付き合わせやがって」 「おわれー!」  レイヴンにひっついている女の子も楽しそうだ。  テオドールもこの子については考えないといけないのだが……それも全部終わってからでいいかと面倒臭さが上回ってしまう。  今はさっさと遊戯を終わらせることだけを考えようと、頭の隅に追いやった。    テオドールも手に入れた青の宝石をはめこむと、大扉がギギギと音を立てて開いていく。  中は薄暗いが、赤く長い敷物がある部屋の作りは王宮勤めをしている者にとっては馴染み深いものだろう。 「王様気取りの魔族ねぇ。悪趣味だな」 「演出というのも大事な要素だ。我が愉しむためにはな」  涼し気な声が室内に響くと同時に、魔法の(あか)りなのか空中に浮いた炎が順番にボッと音を立てながら左右連なって道を照らしていく。  灯りは一直線に並んで玉座に座っていた人物に辿り着くと、ぶわりと灯りが広がって辺りが多少見やすくなる。  想像より広い室内は天井も高く、少しくらい暴れても大丈夫そうな空間だ。 「ここまでくだらねぇ遊戯とやらに付き合ってやった訳だが、ついにご本人登場か。ったく、面倒臭ぇことやらせやがって」 「そう言うな、魔法使い。いや、テオドールだったか。それと周りの者も、悪くなかった」  相変わらず恰好付けているが、自分の美貌(びぼう)に自信があるということなのだろう。  初めて会ったときと変わらぬ上級貴族のような服で、血のような紅い玉座に足を組んで座っている。   「お前が……魔族か!」  血気盛んなディートリッヒがいきなり剣を引き抜いて切っ先を向けても、眉の一つも動かさない。  聖女も言葉には出さないが、随分ピリピリしているようだ。 「……こんな息もしづらい空間でよく普通に会話できますね。正直体の震えが止まりませんよ」 「それが普通だ。精霊ですらあまり深く関わり合いになりたくないものだ」  これまで沈黙していたサラマンダーが嫌そうな顔で正面を見据える。  魔族も当然精霊王の存在には気づいていて、フッと楽し気に口を歪ませた。

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