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237.遊戯の前の自己紹介
ディートリッヒは今にも戦いを始めそうだが、何か言われるまで動けないってのがもどかしい。
魔族は悠々と足を組み直し、テオドールたちを品定めするようにスッと目を細める。
「そこの血気盛んな騎士は怒りの感情がとても分かりやすいな。我はお前に対してまだ何もしていないというのに。後ろの聖女とやらも相容れない拒絶を感じるが?」
「当たり前でしょう。私は女神ミネルファリア様より力を授かっている聖女。お前とは対極の位置にいる者よ」
「それは残念だ。我らにも崇拝する王はいるが、あの方は個々の判断に任せると仰っている。故 に我らは我ら自身の信念で動く。女神のように無理強いしたりはしない」
聖女は色々と言いたそうだが、押し問答は意味がないことだと悟っているのか一旦口をつぐむ。
ディートリッヒも必死に抑えているようだが、ウルガーが様子見するようにとディートリッヒを押しとどめていた。
「人間たちだけではなく、精霊王も遊戯に参加してくれるのか。貴様らは日和見 だと思っていたがな」
「言い方に悪意があるのは魔族故か。積極的に参加するつもりはなかったが、人間に付く方が面白いと思ったまでだ」
サラマンダーが魔族の煽りにも冷静に対処する。
テオドールはそもそも契約者でもなんでもないため、サラマンダーがどれくらいこの場にいることができるのかも分からない。
「まあいい。始める前に我を知らない者へ自己紹介をしておこう。我が名はハーゲンティ。そこの魔法使いテオドールと誓いを交わしている」
魔族が誓いと言った途端、テオドールの手の甲に赤い文字が浮かび上がる。
テオドールはチッと舌打ちしながら、内心やはりコイツも満足させないといけないのかという事実に露骨に嫌な顔をする。
「ハーゲンティとやら、くだらぬ遊びには随分付き合ってやった。お前も約束を守り、テオを開放しろ」
ディートリッヒは切っ先を向けたまま、ハーゲンティーに対して真っ向から言い放つ。
テオドールもディートリッヒの胆力だけは認めてやってもいいが、今は逆効果なんだよなァと心の中で呟く。
ハーゲンティーは余裕な表情を崩さずに、顎で何かを指し示す。
その先には女の子に持たせている人間入りビンが見える。
「我は余計な手出しをせずにそこのビンに入っている人間どもを見張っていた。今度は我の愉しみに付き合ってもらおう」
「我の愉しみ……ってことは、また似たようなことをやらされるのか」
テオドールが心底嫌な気持ちを含めたため息を吐くと、ハーゲンティは愉悦に浸った表情でそうだと答える。
「付き合えば良いってんなら、さっさと終わらせようぜ。どうせこの場で戦いごっこだろ」
「物分かりが良くて助かる。では、始めよう」
ハーゲンティの合図で、空間に溶け込んで消え去ったはずの魔族たちがまた姿を現す。
まだ出番は終わりじゃないということだろうか。
「おい、そいつらもか?」
「そうだ。私の愉しみの盛り上げ役として、再度ご出演していただいた訳だ」
ご出演だからと出てきた魔族は全員乗り気で魔族ではなさそうだ。
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